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相続と承継

会社を売ることを、家族と社員にいつ・どう伝える? 国のガイドラインに書かれている順番

会社を継ぐのが家族か社員か、社外への引き継ぎ(M&A)かで、関係者に伝える順番は逆になります。中小企業庁の事業承継ガイドラインと中小M&Aガイドラインに書かれている、話し合いの相手・時期と秘密の守り方をまとめました。

書いた人

M&A仲介の通信簿 編集部

国の「M&A支援機関登録制度」の届出を毎月取り込み、仲介会社の手数料を同じ条件で計算して載せています。記事は中小企業庁のガイドラインなど公的な資料にもとづいて書き、仲介や交渉、価格や税の助言はしません。

居間のテーブルで書類のファイルを前に話し合う社長と家族、窓の外に会社の建物が見えるアイソメトリックのイラスト
社長

会社を売ることを考えはじめました。家族にも社員にも、まだ話していません。だれに、いつ話せばいいのでしょうか。

案内役

中小企業庁の2つのガイドラインに、関係者との話し合い方が書かれています。会社をだれに継ぐかで、話す順番が反対になるんです。順に確かめていきましょう。

先に結論

  • 事業承継ガイドライン(中小企業庁・第3版)は、会社を引き継ぐ道を「親族内承継」「従業員承継」「社外への引継ぎ(M&A)」の3つに分けています
  • 家族や社員が継ぐ道では、早めに家族会議・親族会議を開き、社員・取引先・金融機関にも早めに説明することが望ましい、とガイドラインは書いています
  • 会社を売る道では反対です。最終契約の前に知らせるのは親族や幹部役員などのごく一部で、それ以外の人には「原則として可能な限りクロージング後(早くとも最終契約締結後)」に知らせる、と中小M&Aガイドラインは書いています
  • 売る前に、身近な親族(特に子や兄弟)から「家族では継がない」ことの了解を得ておくことも、ガイドラインに書かれています。相続や遺留分など家族の財産の判断は、弁護士や税理士などの専門家に確かめてください
  • 家族と話すときの材料に、手取りの見込みを計算機で出せます:譲渡額3,000万円で計算する

会社を引き継ぐ3つの道

社長

会社を残すには、売るほかにどんな道があるのですか。

案内役

ガイドラインは、だれに引き継ぐかで3つに分けています。道によって、話し合う相手と時期が変わります。

事業承継ガイドライン(25〜27ページ)は、3つの道の特徴を次のように書いています。

道 引き継ぐ相手 ガイドラインが挙げる主な特徴
親族内承継 子などの親族 社内外の関係者に気持ちのうえで受け入れられやすい。早く後継者を決めれば、長い準備期間をとれる
従業員承継 親族以外の役員・社員 経営者としての力がある人を見極めて引き継げる。長く働いてきた社員なら、経営の方針を保ちやすい
社外への引継ぎ(M&A) 社外の第三者 親族や社内に適任者がいなくても、広く外に候補を探せる。社長は会社を売った代金を受け取れる

ガイドラインは、親族内承継の割合が減り、従業員承継やM&Aの割合が増えていると書いています(12〜13ページ)。また、家族や社員への承継を考えるときも、状況によってはM&Aの可能性も視野に入れて検討を進めるよう書いています(28ページ)。

中小M&Aガイドライン(29ページ)は、M&Aが「後ろめたい」「従業員に申し訳ない」と受け止められることがあった、と書いています。そのうえで、M&Aは社長が築いてきた事業の価値を社外の相手が認めて実現するもので、「後ろめたいことではなく、むしろ誇らしいことであると言える」としています。

早めの準備をガイドラインが求める理由

社長

家族に話すのは、まだ先でもいい気がしています。

案内役

ガイドラインは、準備に時間がかかることを理由に、早めに動き出すことを求めています。

事業承継ガイドラインには、次の記述があります。

  • 後継者の教育など、準備にかかる期間を考えて、経営者が「概ね60歳に達した頃」には準備に取りかかることが望ましい(第二章 ステップ1、32ページ)
  • どの道でも、会社と個人に関係する多くの人の思いと利害がからむ。できるだけ経営者自身が健康なうちに、関係者と十分に意思の疎通を図っておくことが望ましい(第三章の冒頭、54ページ)
  • 事業承継は家族の中の問題と受け止められがちで、気軽に外部に相談できない経営者も少なくない。準備に取りかかって支援機関を訪れたときには、課題がさらに深刻になっていた例もある(ステップ1、32ページ)

準備にどのくらいの時間がかかるかは、会社を売る時期を考えるときの材料にまとめています。

家族や社員が継ぐときは「早めに話し合う」

金融機関の応接で、社長が後継者の候補を担当者に紹介している場面
社長

もし子どもや社員に継いでもらうなら、いつ話すものですか。

案内役

ガイドラインは、後継者の候補の同意を得たうえで、家族・社員・取引先・金融機関と早い段階から話し合うよう書いています。

事業承継ガイドラインが、相手ごとに書いていることです。

相手 ガイドラインに書かれていること ページ
後継者の候補 早い段階から対話を重ね、事業の実態と、社長の想いや経営理念を共有していく 54
家族・親族 早めに家族会議・親族会議を開き、社長の想いを伝えて、親族の同意を得ておくことが「極めて重要」 59
社員 後継者の候補を知らないと、会社の将来への不安がつのり、士気にもかかわる。早めに後継者の候補や計画を知らせておく 59〜60
取引先・金融機関 社長が高齢なのに計画が示されないより、後継者の候補を紹介され、計画を示されるほうが、取引を続けるうえで有益。早めに説明する 60

あわせて、事業承継の計画は、後継者や親族と一緒に、取引先・社員・金融機関との関係を考えて作り、作ったあとは関係者と共有しておくことが望ましい、とも書いています(42ページ)。

会社を売るときは「知らせる時期」に気をつける

社長

会社を売る場合も、社員には早めに話したほうがいいのでしょうか。

案内役

会社を売る道では、ガイドラインの書き方が反対になります。知らせる時期と内容に、十分に注意するよう求めています。

中小M&Aガイドライン(第1章「秘密保持の徹底」、31ページ)は、次のように書いています。事業承継ガイドライン(98ページ)にも、ほぼ同じ記述があります。

外部はもちろん、親戚や友人、社内の役員・従業員に対しても、知らせる時期や内容には十分注意する必要がある。中小M&Aの最終契約締結前に、極秘に親族や幹部役員等のごく一部の関係者にのみ知らせることもあるが、それ以外の関係者に対しては、原則として可能な限りクロージング後(早くとも最終契約締結後)に知らせるべきである。

「クロージング」は、株式などを渡して代金を受け取る、M&Aの最後の段階です。

話が早く広まったときに起こりうることとして、ガイドラインは次のことを挙げています。

  • 取引先や社員に思いがけず話が伝わったり、社長の不用意な一言からトラブルになったりして、M&Aが行き詰まることがある(31ページ)
  • 取引先や社員に話が伝わったあとでM&Aが行き詰まると、取引先を失ったり社員が辞めたりして、これまでの事業を続けるのに支障が出るおそれもある(31ページ)
  • 複数の仲介会社などに相手探しを頼み、同じ会社の情報が同じ買い手の候補に紹介されると、情報が出回っているように感じられ、買い手の心証が悪くなることがある(31ページ)
  • M&Aが成り立たなかった例として、「社外へ情報が漏れたことに伴い、中小M&Aが不成立になった事例」が挙げられている(28ページ)

売る前に家族と確かめておくこと

社長

家族には、売ると決める前に話しておかなくていいのですか。

案内役

身近な家族の了解は、先に得ておく必要があるとガイドラインは書いています。そのときも、秘密を守ることに注意が要ります。

中小M&Aガイドライン(第1章「中小M&Aに向けた事前準備」、34〜36ページ)には、家族に関わることが次のように書かれています。

  1. 後継者がいないことの確認:身近な親族(特に子や兄弟)から、家族では継がないことの了解を得ておく。社内に後継者の候補がいないことも確かめておく。このときも、秘密保持に注意する
  2. 引退後の過ごし方と希望の条件:しばらく事業に関わり続けたいのか、別のことをしたいのかなど、引退後の過ごし方を含めて、希望の条件を前もってよく考えておく。代金の額や社員の雇用を続けることのほかにも考える条件はあり、できるだけ優先順位を付けておく
  3. 株式の持ち主の確認:株式が分かれていたり、一部の株主の居場所が分からなかったりすると、M&Aの大きな障害になるおそれがある。会社の全株式を渡す場合は、基本的に社長がすべての株式を持っている必要があり、ほかの株主から買い取ることが必要な場合もある。株主名簿が正しいか、実際には出資していない親族や知人の名義の株式(名義株)がないかも確かめる
  4. 事業に使う財産の確認:大切な不動産や設備が第三者の名義になっている、担保が付いている、遺産分割で争われているといった場合は、譲ったあとの事業に支障が出ることがあるので確かめる。会社の財産と社長個人の財産を、はっきり分けて整理しておく

また、ガイドラインはM&Aが成り立たなかった例として、「オーナー一族間の不和、コミュニケーション不足により、中小M&Aが不成立になった事例」も挙げています(28ページ)。

社員と取引先に知らせる時期

会社を売るときに知らせる順番として、身近な親族の了解、親族・幹部のごく一部、最終契約とクロージングのあとのほかの社員・取引先を示した図
社長

売ることが決まったら、社員や取引先には、いつ伝えるのですか。

案内役

知らせる時期は、まず売り手と買い手で話し合って決める、とガイドラインは書いています。

中小M&Aガイドラインの記述を、段階ごとに並べるとこうなります。

段階 知らせる相手 ガイドラインに書かれていること ページ
検討を始めたころ 身近な親族(特に子や兄弟) 家族では継がないことの了解を得る。秘密保持に注意 34〜35
最終契約の前 親族や幹部役員などのごく一部 極秘に知らせることもある 31
最終契約〜クロージングのあと それ以外の社員・取引先など 原則として可能な限りクロージング後(早くとも最終契約締結後)。時期はまず売り手と買い手で協議する 31
クロージングのあと 役員・社員・取引先など M&Aの完了を報告し、引き継ぎの作業をする 57

最終契約で「クロージングのあとに公表する」と取り決めたときは、それまで秘密を守り通す必要がある、とも書かれています(49ページ)。クロージングのあとの引き継ぎの作業には、3か月〜1年程度かかることが多いとされています(57ページ)。

相談先と、契約の中の「秘密の決まり」

社長

顧問の税理士や公的な窓口に相談するのは、秘密を守ることに反しませんか。

案内役

ガイドラインは、相談先に話してよいことが契約で認められているかを、確かめておくよう書いています。

中小M&Aガイドラインには、相談先と秘密について、次の記述があります。

  • 会社を売ることを決める前の相談は、まず顧問の税理士などにすることも多い(34ページ)
  • 仲介会社との契約には、仲介会社だけでなく、社長の側にも秘密を守る義務を課す決まり(秘密保持条項)があるのが通常(39ページ)
  • 公認会計士・税理士・弁護士などの専門家や、事業承継・引継ぎ支援センターに意見を求める妨げにならないよう、これらの相手に情報を伝えてよいことが認められているかを、確かめておくことが望ましい(39〜40ページ)

契約の前に確かめたい項目は、M&A仲介の契約の前に確かめることにまとめています。国が各都道府県に置く事業承継・引継ぎ支援センターでは、家族や社員への承継も、会社を売ることも、無料で相談できます。使い方は事業承継・引継ぎ支援センターの使い方をご覧ください。このサイトの相談のページでも、公的な窓口を案内しています。

金額の見込みが変われば、話す中身も変わります。譲渡額1億円で計算するのように、いくつかの金額で試せます。

よくある質問

社長 社員に早く話すと、どんなことが起こりえますか?
案内役

中小M&Aガイドラインは、取引先や社員に話が伝わったあとでM&Aが行き詰まると、取引先を失ったり社員が辞めたりして、事業を続けるのに支障が出るおそれがあると書いています。だれに、いつ知らせるかは、まず買い手と話し合って決めるものとされています。

社長 家族のだれにまで話しておくものですか?
案内役

ガイドラインには、身近な親族(特に子や兄弟)から、家族では継がないことの了解を得ておくことが書かれています。最終契約の前に知らせる相手は、親族や幹部役員などのごく一部とされています。だれに話すかを決めるのは、ご家族の事情を知る社長ご自身です。

社長 社員に継いでもらう道と、会社を売る道を、両方考えてもいいのですか?
案内役

事業承継ガイドラインは、家族や社員への承継に向けて後継者を選ぶだけでなく、状況によってはM&Aの可能性も視野に入れて検討を進めるよう書いています。中小M&Aガイドラインは、会社を売る前に、社内に後継者の候補がいないことを確かめておく必要があると書いています。

社長 相続や遺留分のことは、どこで確かめればいいですか?
案内役

家族の財産の分け方や遺留分は、法律と税の個別の判断です。このサイトは判断をしません。弁護士や税理士などの専門家に確かめてください。各都道府県の事業承継・引継ぎ支援センターでも、事業承継の相談を無料で受けています。

社長

家族や社員が継ぐときと、会社を売るときで、話す順番が反対になるのですね。まず、妻と子どもが継ぐ気持ちがあるかを確かめるところから考えてみます。

案内役

ガイドラインは、どの道でも、関係者との対話に時間をかけることを求めています。だれに、いつ話すかを、ガイドラインの記述と照らして確かめてください。

このデータについて

  • この記事は、中小企業庁の事業承継ガイドライン(第3版・令和4年3月改訂。令和6年4月に一部更新)と、中小M&Aガイドライン(第3版・令和6年8月)の記述をまとめたものです。取得日は2026年10月12日です。ページ番号は、それぞれのPDFに書かれた番号です
  • 統計の数字や試算は使っていません
  • 当サイトは仲介や交渉、価格や税・法律についての助言は行いません。家族の財産や相続の判断は、弁護士や税理士などの専門家に確かめてください

出典