社長
65歳になりました。会社を売るとしたら、いつごろがいいのでしょうか。
案内役
いつ売るかを決めるのは、社長ご自身です。このサイトは時期の助言はしません。そのかわりに、国の白書とガイドラインにある「考える材料」と「準備にかかる時間」を並べます。
先に結論
- 売る時期を決めるのは社長ご自身です。ここでは、国の白書とガイドラインにある材料だけを並べます
- 2026年版中小企業白書によると、2025年は中小企業の経営者の半分以上(52.5%)が60歳以上でした。後継者がいない会社の割合は50.8%で、2016年の66.0%から下がっています
- 事業承継ガイドライン(第3版)は「経営者が概ね60歳に達した頃には事業承継の準備に取りかかることが望ましい」と書いています
- 中小M&Aガイドライン(第3版)は、買い手とのマッチングに「数か月~1年程度」、成約したあとの引き継ぎに「3か月~1年程度」かかることが多いと書いています。最初の相談は、直近3年分の決算書などの写しで足りるとしています
- 時期を考える材料として、今の金額での手取りの見込みも計算機で見られます:譲渡額5,000万円で計算する
国のデータで見る経営者の年齢
社長
ほかの会社の社長は、何歳くらいなのでしょう。
案内役
2026年版の中小企業白書に、中小企業の経営者の年齢の分かれ方が載っています。2025年は、60歳以上の経営者が半分を超えました。
中小企業庁の「2026年版 中小企業白書」(2026年4月24日閣議決定)の第1-1-45図は、中小企業の経営者の年齢の分かれ方を示しています。2025年の割合を、10歳ごとにまとめると次のとおりです。
| 経営者の年齢 | 2025年の割合 |
|---|---|
| 50歳未満 | 17.6% |
| 50〜59歳 | 29.9% |
| 60〜69歳 | 27.2% |
| 70〜79歳 | 19.6% |
| 80歳以上 | 5.7% |
10歳ごとの割合は、白書の図にある5歳ごとの割合を足したものです。60歳以上を足すと52.5%になります。白書は「中小企業の経営者年齢の水準は依然として高く、2025年は60歳以上の経営者が過半数を占めている」と書いています。
白書は、倒産ではなく事業をやめたり会社を解散したりした会社(休廃業・解散した会社)の経営者の年齢も示しています(第1-1-43図)。
- 2025年の経営者の平均年齢は71.5歳でした。2016年は67.4歳です
- 2025年は、70代が39.3%、80代以上が24.4%でした
- 白書は、2016年以降、「70代」「80代以上」の割合と平均年齢が上がる傾向にあると書いています
後継者がいない会社の割合
社長
後継者がいない会社は、多いのですか。
案内役
白書によると、後継者がいない会社の割合は下がってきています。それでも2025年で、およそ半分です。
2026年版中小企業白書の第1-1-44図は、中小企業のうち後継者がいない会社の割合(後継者不在率)を、経営者の年代別に示しています。
| 経営者の年代 | 2025年の後継者不在率 |
|---|---|
| 全体 | 50.8%(2016年は66.0%) |
| 60代 | 36.3% |
| 70代 | 26.5% |
| 80代以上 | 21.3% |
「全体」には、経営者の年齢が分からない会社も含みます。白書は、全体として後継者不在率は下がる傾向にあり、60代以上でも同じように下がっていることから、「後継者不在の解消が一定程度進んでいる」と書いています。
会社を社外に引き継ぐ動きについても、白書は数字を示しています。
- 国内の企業のM&Aの件数は近年増える傾向にあり、2025年は5,115件でした(第1-1-46図)
- 国が各都道府県に置く事業承継・引継ぎ支援センターでは、第三者への引き継ぎの相談者数が2024年度に16,045者、成約件数が2,132件でした。白書は、どちらも増える傾向にあり「中小企業においてM&Aが活発化している」と書いています(第1-1-47図)
- 白書のコラム(コラム1-1-4)は、「今後事業承継・M&Aを本格的に検討する必要のある60代以上の経営者も多く存在して」いると書いています
売ることを考えた会社が挙げた心配ごと
社長
売ることを考えたほかの社長は、何を心配しているのでしょう。
案内役
白書に、中小企業への調査の結果が載っています。いちばん多かったのは、売ったあとの社員の扱いへの不安でした。
2026年版中小企業白書の第2-2-81図は、会社や事業を売ること(M&Aの売却)を考えるうえでの問題点を、中小企業に聞いた結果です(2025年11〜12月の調査、12,031社、いくつでも選べる答え方)。
| 売ることを考えるうえでの問題点 | 割合 |
|---|---|
| 売却後の従業員の処遇への不安 | 8.0% |
| 組織文化の違いによる摩擦 | 4.7% |
| 仲介手数料の負担 | 4.0% |
| 適切な相談相手の不在 | 3.9% |
| 売却金額への不満 | 3.6% |
| 売却手続きの煩雑さ | 3.4% |
答えた会社の82.4%は「売却を検討したことはない」と答えていて、上の割合は答えたすべての会社に対するものです。同じ調査で、2019年以降に会社を売ることへの印象が「変わらない」と答えた会社は81.1%、「マイナスのイメージになった」は11.0%、「プラスのイメージになった」は7.9%でした(第2-2-80図)。
社員に伝える時期は家族と社員に、会社を売ることをいつ・どう伝えるかに、仲介手数料はM&A仲介の手数料の相場にまとめています。
準備から引き継ぎまで、どのくらいかかるか
社長
売ると決めてから、実際に引き継ぐまで、どのくらいかかるものですか。
案内役
ガイドラインには、段階ごとの目安が書かれています。相手探しと引き継ぎの目安には、「個別のケースにより異なる」という前置きがついています。
国のガイドラインに書かれている時間の目安を、段階ごとに並べました。
| 段階 | ガイドラインに書かれている目安 | 出典 |
|---|---|---|
| 準備を始める年齢 | 経営者が「概ね60歳に達した頃」には準備に取りかかることが望ましい | 事業承継ガイドライン 32ページ |
| 家族や社員に継ぐときの移行 | 後継者を決めてから引き継ぎが終わるまで(育成の期間を含む)、3年以上かかる割合が半数を超え、10年以上かかる割合も少なくない | 事業承継ガイドライン 14ページ(図表16) |
| 買い手とのマッチング(相手探し) | 希望する買い手とのマッチングには、通常、数か月〜1年程度 | 中小M&Aガイドライン 30ページ |
| 成約したあとの引き継ぎ | 引き継ぎの作業に、3か月〜1年程度かかることが多い | 中小M&Aガイドライン 57ページ |
事業承継ガイドラインは、引退する年齢の平均が70歳前後であることをふまえて、「概ね60歳頃には事業承継に向けた準備に着手することが望ましい」と書いています(14ページ)。図表16は民間の調査(2021年8月)をもとにしたものです。
仲介会社との契約の期間についても、中小M&Aガイドラインに目安があります。ほかの会社に頼めなくなる決まり(専任条項)があるときは、契約の期間は「最長でも6か月〜1年以内が目安」とされています(40ページ)。
会社を売るまでの流れ
社長
売ると決めたら、どんな順番で進むのですか。
案内役
事業承継ガイドラインは、準備から実行までを5つのステップに分けています。会社を売るときは、ステップ4で「M&Aの工程」に進みます。
事業承継ガイドライン(第二章、32〜46ページ)の5つのステップです。
- 事業承継に向けた準備の必要性の認識
- 経営の状況・経営の課題などの把握(見える化)
- 事業承継に向けた経営の改善(磨き上げ)
- 家族や社員に継ぐときは事業承継計画の策定、社外に引き継ぐときはM&Aの工程の実施
- 事業承継・M&Aの実行
ステップ4のM&Aの工程は、次の順に進みます(44〜46ページ)。
- 意思決定
- 仲介者・FA(ファイナンシャル・アドバイザー)の選定
- 会社の価値の評価(バリュエーション)
- 買い手の選定(マッチング)
- 交渉(社長どうしの面談など)
- 基本合意の締結
- 買い手による調査(デュー・ディリジェンス)
- 最終契約の締結
- クロージング(株式などを渡し、代金を受け取る)
ガイドラインは、会社の価値の評価で出た金額が、そのまま譲渡額になるわけではないとも書いています。交渉の結果、当事者どうしが最後に合意した金額が譲渡額になります(45ページ)。
準備の中身:見える化と磨き上げ
社長
準備というのは、具体的に何をするのですか。
案内役
大きく分けて、会社の今の姿を分かる形にする「見える化」と、会社をよくする「磨き上げ」です。会社を売るときは、株式と事業に使う財産の整理が「最低限」必要だと書かれています。
事業承継ガイドラインと中小M&Aガイドラインに書かれている準備の中身です。
見える化(事業承継ガイドライン 33ページ)
- 社長の個人の不動産を事業に使っていないか、会社の借入れの担保、社長と会社のお金の貸し借り、社長の個人保証など、会社と個人の関係をはっきりさせる
- 「中小企業の会計に関する指針」や「中小企業の会計に関する基本要領」などを使って、決算が適正に処理されているかを点検する
- 持っている自社の株式の数を確かめ、株価を評価する
磨き上げ(事業承継ガイドライン 36〜39ページ)
- 本業の競争力を強くする(強みを伸ばし、弱みを改める)
- 経営の体制を点検する(社員の役割と権限をはっきりさせる、規程やマニュアルを整える)
- 事業に要らない資産や売れ残りの在庫を処分し、余分な借入れを返す
- 会社のお金の状況を、早く正確につかめるようにする
株式と事業に使う財産の整理(中小M&Aガイドライン 35〜36ページ)
- 会社の全株式を渡す場合は、基本的に社長がすべての株式を持っている必要がある。ほかの株主から買い取ることが必要な場合もある
- 株主名簿が正しいか、実際には出資していない人の名義の株式(名義株)がないかを確かめる
- 大切な不動産や設備が第三者の名義になっていないか、担保が付いていないかなどを確かめる
- 会社の財産と社長個人の財産を、はっきり分けて整理する
判断が遅れたときに起こりうること
社長
もう少し考えてから、と思っているうちに時間がたってしまいそうです。
案内役
ガイドラインは、判断が遅れたときに起こりうることも書いています。事実として並べておきます。
国のガイドラインには、次の記述があります。
- 中小M&Aをより早く検討して実現することで、社員の雇用を守り、地域の取引のつながりを保てる。社長自身の手元に残る代金が多くなるケースもある(中小M&Aガイドライン 30ページ)
- 決断が遅れれば遅れるほど、M&Aの選択肢は狭まる傾向にある。業績がよくないときは、資金繰りが尽き、廃業の費用すら出せない状況になるケースもある(中小M&Aガイドライン 31ページ)
- 先代の経営者の死去や体調の悪化といった、思いがけない事情で事業を引き継ぐケースも少なくない。個人事業者では、こうした事情による引き継ぎが約6割を占める(事業承継ガイドライン 16ページ、図表17。2016年11月の中小企業庁の委託調査)
時期を考えるときに確かめたいこと
社長
時期を考える前に、何を確かめておけばいいでしょう。
案内役
国のガイドラインで、事前の準備として挙げられていることを、確かめる項目の形にしました。
- 引退したあと、どう過ごしたいか。事業にしばらく関わりたいのか、別のことをしたいのか(中小M&Aガイドライン 35ページ)
- 家族や社内に、後継者の候補がいるか。身近な親族(特に子や兄弟)の了解はあるか(中小M&Aガイドライン 34〜35ページ)
- 直近3年分の税務申告書・決算書・勘定科目内訳明細書がそろっているか(中小M&Aガイドライン 34ページ)
- 株主名簿は正しいか。社長がすべての株式を持っているか(中小M&Aガイドライン 35〜36ページ)
- 会社と社長個人の財産・借入れ・保証の関係がはっきりしているか(事業承継ガイドライン 33ページ)
- 仲介会社に払う手数料は、自分の会社の規模でいくらになるか(手取りの計算機)
業績が変わると、売れる金額も変わります。譲渡額1億円で計算するのように、いくつかの金額で手取りを比べられます。
よくある質問
社長
何歳までに売らないといけない、という決まりはありますか?
案内役
国のガイドラインに、売る年齢の決まりはありません。事業承継ガイドラインは、準備に時間がかかることから、経営者が「概ね60歳に達した頃」には準備に取りかかることが望ましいと書いています。60歳を超えている場合は、すぐに身近な支援機関に相談するよう書いています。
社長
売ると決める前に、相談してもいいのですか?
案内役
中小M&Aガイドラインは、意思決定がまだ済んでいないから相談を控えるのではなく、「意思決定がまだ済んでいないからこそ相談することが必要」と書いています。国が各都道府県に置く事業承継・引継ぎ支援センターは、意思が決まっていない段階の相談も受け付けています。相談は無料です。使い方は事業承継・引継ぎ支援センターの使い方にまとめています。
社長
業績が悪いと、売ることはできませんか?
案内役
中小M&Aガイドラインは、会社が小さかったり、赤字や債務超過であったりしても、買い手が事業の価値を認めて「ぜひ譲り受けたい」と申し出ることは大いにありうる、と書いています。一方で、業績がよくないときは、判断が遅れると資金繰りが尽きるケースもあるとしています。
社長
いつ売るかの前に、引退したあとのことと、書類がそろっているかを確かめてみます。
案内役
どちらも、ガイドラインが最初の準備として挙げていることです。決めるのは社長ご自身なので、材料をそろえたうえで、無料の公的な窓口でも話を聞いてみてください。
このデータについて
- 経営者の年齢・後継者不在率・M&Aの件数・センターの相談者数などの数字は、中小企業庁「2026年版 中小企業白書」(2026年4月24日閣議決定)第1部第1章の第1-1-43図〜第1-1-47図とコラム1-1-4(Ⅰ-51〜56ページ)、第2部第2章の第2-2-80図・第2-2-81図(Ⅱ-118〜119ページ)によります。取得日は2026年10月12日です。図の多くは、民間の調査のデータを白書が加工したものです
- 経営者の年齢の10歳ごとの割合と「60歳以上52.5%」は、白書の第1-1-45図にある5歳ごとの割合を足したものです
- 時間の目安と準備の中身は、中小企業庁の事業承継ガイドライン(第3版・令和4年3月改訂)と中小M&Aガイドライン(第3版・令和6年8月)の記述です。ページ番号は、それぞれのPDFに書かれた番号です
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