本文へ移動

進め方

不適切な買い手から会社を守るには:国が公表した事例と、契約の前に確かめること

会社を売ったあとに現預金を移され、経営者保証が残ったという事例を、中小企業庁が公表しています。国の公表資料に書かれた事例と注意、仲介会社に求められている買い手の確認、情報共有の仕組みに加盟する機関の数を、国の資料とデータでまとめました。

書いた人

M&A仲介の通信簿 編集部

国の「M&A支援機関登録制度」の届出を毎月取り込み、仲介会社の手数料を同じ条件で計算して載せています。記事は中小企業庁のガイドラインなど公的な資料にもとづいて書き、仲介や交渉、価格や税の助言はしません。

盾に守られた町工場と金庫、書類と虫眼鏡の机、書類を確かめる社長のアイソメトリックのイラスト
社長

会社を売ったあとに、買い手が会社のお金を持ち出してしまった、という話を聞きました。うちも同じことにならないか心配です。

案内役

中小企業庁も、そうした買い手の例を公表しています。国の資料に書かれていることと、契約の前に確かめられることを、順に見ていきましょう。

先に結論

  • 中小企業庁は2024年10月30日、売り手の経営者保証を引き受けずに、売り手の会社の現預金などを移し、支払いをできなくして倒産させる行為をくり返した買い手がいると公表しました
  • こうした買い手とのM&Aを支援したとして、国は2024年10月に15機関、2025年1月に6社、2025年3月に1社に注意を出し、2025年1月に1社の登録を取り消しました
  • 国の登録機関のうち、不適切な買い手の情報を共有する仕組みに「加盟している」と表示されるのは、3,362機関のうち116機関(3.5%)でした(2026年10月12日取得)
  • 契約の前に、買い手の調査の中身と、情報共有の仕組みへの参加を書面で確かめ、最終契約では経営者保証の扱いがどう書かれているかを確かめてください
  • 手数料と手取りは、計算機で機関ごとに確かめられます:譲渡額3,000万円で計算する

国が公表した、不適切な買い手の事例

社長

不適切な買い手というのは、具体的にどんなことをするのですか。

案内役

国の公表資料とチラシに、その形が書かれています。ここでは、書かれていることだけを並べます。

中小企業庁財務課とM&A支援機関登録制度事務局は、2024年10月30日の公表資料で、次のように書いています。

譲り渡し側の経営者保証を引受けることなく、譲り渡し側の現預金等の資産を移行し、譲り渡し側の支払いに問題を生じさせ、倒産に至らせるといった行為を複数回にわたって実施した不適切な譲り受け側の存在が指摘されております。

やさしく言いかえると、次の3つがそろった行為を、くり返した買い手がいるということです。

  • 売った会社の経営者保証(社長個人が会社の借入れを保証していること)を、買い手が引き受けない
  • 売った会社の現預金などのお金を、買い手が移す
  • 売った会社が支払いをできなくなり、倒産に至る

M&A支援機関登録制度HPのトップに載っている中小企業庁のチラシ「M&Aに関するトラブルにご注意ください。」(2026年10月12日に確認)には、2つの事例が載っています。

事例 チラシに書かれている中身
クロージング後、個人保証が解除されなかった 売り手の経営者の個人保証が、売り手から何度頼んでも、契約どおりに移されなかった。そのうえで買い手は売り手の会社の現預金などを回収したが、必要な事業資金を送らず、会社は倒産した。経営者保証が残っていた経営者が債務を負い、個人破産に至った
代金の分割払い・退職慰労金のあと払いが条件だったが、払われなかった M&Aが成立した時点の譲渡の代金は低く、成立の一定期間後に相当の退職慰労金が払われる契約を結んだ。しかし、契約で決めた期日が来ても、退職慰労金が払われない

クロージングは、代金の支払いと株式の引き渡しをする日のことです。

中小企業庁の2024年5月付けの周知・注意喚起も、同じ形の買い手について書いたうえで、「特に経営者保証の引受けを前提に低額の譲渡額での譲り受けを提示されている場合等についてはご注意ください」としています。

国が支援機関に出した注意と登録の取消

社長

そういう買い手とのM&Aを手伝った仲介会社には、何か措置があったのですか。

案内役

中小企業庁が、注意と登録の取消を公表しています。公表資料の日付と中身だけを並べます。

中小企業庁の公表資料に書かれている措置は、次のとおりです。この記事では、個別の会社の名前は書きません。

公表日 措置 対象 公表資料に書かれた主な中身
2024年10月30日 注意 15機関 10月29日付けで、不適切な譲り受け側とのM&Aを支援した15機関に注意を出し、対策の検討と実施を指示。対策が取られていなければ翌年度以降の登録の継続を認めないと通知。対策が取られるまで、事業承継・引継ぎ支援センターとの連携を停止
2025年1月24日 登録の取消 1社 中小M&Aガイドラインが求める善管注意義務に係る規定に違反(「資金力に疑義がある不適切な買手であることを認識しながらM&Aを成立させた」等)。欠格期間8か月。センターとの連携を停止
2025年1月24日 注意 6社 不適切な譲り受け側とのM&Aを支援。対策の検討と実施を指示し、対策が取られていなければ翌年度以降の登録の継続を認めないと通知
2025年3月14日 注意 1社 同じく、不適切な譲り受け側とのM&Aを支援。対策が取られるまで、センターとは連携しない

2024年10月30日と2025年1月24日の公表資料では、あわせて、すべての登録機関に中小M&Aガイドラインの遵守の徹底を求め、違反があれば登録の取消などの対応がありうると通知したことも書かれています。

国の注意と登録の取消のすべての履歴は、このサイトの国の注意・登録取消の履歴に、公表資料の引用と日付で並べています。

仲介会社に求められている、買い手の確認

事務所の机で、2人が書類と表を広げて確かめ合っている場面
社長

仲介会社は、買い手のことをどこまで調べてくれるのですか。

案内役

ガイドラインは、買い手を調べることと、その調べ方の概要を契約の前に売り手に説明することを、仲介会社に求めています。

中小M&Aガイドライン(第3版)が、買い手の確認について仲介会社に求めていることは、次のとおりです(ガイドライン100〜103ページ)。

  • 目的: 買い手が最終契約を守り、事業を引き継ぐ意思と力をもっているかを確かめる
  • 中身: 買い手の財務の状況と、事業の実態。買い手(代表者・役員・株主などを含む)が反社会的勢力にあたらないか、過去にM&Aのトラブルを起こしていないか。財務は、想定する代金を用意できるか、M&Aのあとも事業を続けて運営できるか、という見方で確かめる
  • 時期: 買い手と契約する前に加えて、M&Aが進む途中でも調べ、最終契約までに十分に確かめる
  • 方法: 買い手の税務申告書や商業登記簿を確かめ、そこに載っている関係者も含めてコンプライアンスを確かめる。売り手が債務超過のときなど、買い手の信用が特に大事な場合は、とくに慎重に調べ、少なくとも決算公告や税務申告書で財務を確かめる
  • 情報の扱い: 不適切な買い手の情報を得たら、担当者だけにとどめず組織で共有し、その買い手を支援するかを慎重に決める。仲介の場合、買い手の不適切な行為の情報を得ていたら、売り手に知らせる

あわせて、売り手には、契約の前に次の2つを説明するよう求めています(17の事項の16番と17番。ガイドライン86〜88ページ)。

  • 買い手に対して行う調査の概要(だれが調べるか、財務・コンプライアンス・事業の実態の調査など)
  • 不適切な買い手の情報を共有する仕組みに参加しているか(参加していなければ、その旨)

クロージングの日には、買い手から代金が確実に入金されたことを確かめることも求めています(ガイドライン98ページ)。契約の前に受ける説明の全体は、M&A仲介の契約の前に確かめることにまとめました。

不適切な買い手の情報を共有する仕組み

社長

情報を共有する仕組みに入っているかどうかは、どこで分かりますか。

案内役

国のデータベースに、機関ごとの加盟の有無と、仕組みを運営する団体が表示されています。「加盟している」と表示されるのは、登録機関の一部です。

2026年10月12日に取得した国のデータベースで数えると、不適切な買い手の情報を共有する仕組みに「加盟している」と表示される機関は、3,362機関のうち116機関(3.5%)でした。仲介の業務がある2,978機関に限ると、108機関(3.6%)です。

加盟先として届け出られた運営主体は、一般社団法人M&A支援機関協会が108機関、一般社団法人M&Aファイナンシャルアドバイザー協会が8機関でした。

機関の種類ごとに見ると、次のとおりです。

機関の種類 加盟している 登録の数 割合
M&A専門業者 89 1,156 7.7%
金融機関 7 205 3.4%
士業等専門家 10 1,274 0.8%
コンサルティング会社 5 644 0.8%
M&Aプラットフォーマー 3 27 11.1%
その他・商工団体 2 56 3.6%

2024年度の中小M&Aの成約実績(国のデータベースでは幅で公表)ごとに見ると、次のとおりです。

2024年度の成約実績 加盟している 登録の数 割合
「-」の表示 20 2,578 0.8%
5件まで 42 613 6.9%
6〜10件 17 74 23.0%
11〜50件 28 85 32.9%
51件以上 9 12 75.0%

本店が東海4県にある機関では、愛知県169機関のうち5機関、岐阜県37機関のうち2機関が「加盟している」と表示され、三重県(17機関)と静岡県(55機関)は0機関でした。

国の公募要領(令和8年度)によると、加盟していると届け出た機関について、事務局がその仕組みの運営主体に対応の状況を確かめることがあります。中小企業庁の文書「不適切な譲り受け側に係る情報共有の仕組みについて(令和7年2月)」をふまえていない仕組みは、加盟が無いものとして判定されることがあるとしています(公募要領 令和8年度 14ページ)。

加盟の有無は、各機関の通信簿と手取りの計算機でも表示しています。加盟していない機関も、ガイドラインでは、契約の前にその旨を説明することになっています。

経営者保証の扱いを、契約で確かめる

最終契約の案で確かめること(保証の解除か移行か、いつ・どの手続きで、されなかったときの扱い、あと払いの約束)を示した図
社長

会社の借入れに、私が保証人になっています。会社を売ったら、この保証はどうなるのでしょう。

案内役

国のチラシの事例では、保証が移されないまま残りました。ガイドラインは、保証の扱いを最終契約ではっきりさせることを、仲介会社に求めています。

中小M&Aガイドライン(第3版)が、売り手の経営者保証について仲介会社に求めていることは、次のとおりです(ガイドライン95〜97ページ)。

  • 保証の扱いは、売り手の経営者と方針を相談したうえで、対応を考える
  • 経営者の意向をよく聞き、弁護士などの専門家や事業承継・引継ぎ支援センターへの相談、保証先の金融機関へのM&A成立前の相談も、選択肢であると説明する。金融機関への事前の相談は、M&Aが成立しなかったときの情報の扱いなどの注意点も伝える
  • 売り手が、保証の扱いについて専門家や金融機関に相談したいときは、それを拒まず、秘密保持の条項の対象から相談先を外す
  • 保証の解除や、買い手への移行を想定するなら、最終契約で、買い手の義務としてはっきり位置づけることを検討する。解除や移行をクロージングの条件にすることや、移行されなかった場合の条項(契約の解除や補償など)を入れる方向で調整する

ガイドラインには、具体的な例も書かれています。最終契約のあと、クロージングの前に、買い手が金融機関から保証の解除や移行ができるかの意向を取ること、必要な書面を金融機関に出し、代表者の変更登記の書類を作ることです。万全を期す場合は、クロージングの日に、代表者の変更登記と保証の解除・移行の手続きを同時に行うことが考えられる、としています。

あわせて、クロージングのあとの支払い、最終契約のあとの支払いの調整、売り手の会社の資産や貸付金の整理などについて、当事者の間で調整が十分でない段階で、リスクを生む条項や仕組みを安易に提案しないことも求めています。提案するときは、組織として判断し、リスクの中身と、起きうる結果をできるだけ具体的に説明するとしています。

最終契約の案を受け取ったら、次の点が書面でどう書かれているかを確かめてください。

  • 経営者保証を、解除するのか、買い手に移すのか。それがだれの義務か
  • 解除や移行を、いつまでに、どの手続きで行うのか
  • 解除や移行がされなかったときに、どうなるのか
  • 代金の一部や退職慰労金が、あと払いになっていないか。なっているなら、その支払いの約束がどう書かれているか

保証や支払いの条件をどう判断するかは、弁護士などの専門家や、事業承継・引継ぎ支援センターに別の意見を聞くことができます。センターの使い方は、事業承継・引継ぎ支援センターの使い方にまとめました。

おかしいと感じたときの、国の窓口

社長

話が進んでいる途中で、おかしいと感じたら、どこに知らせればいいのですか。

案内役

国には、登録機関の不適切な対応を知らせる窓口があります。もめごとの解決や助言をする窓口ではないことも、案内に書かれています。

M&A支援機関登録制度HPに、情報提供受付窓口があります。窓口の案内と国の公表資料には、次のことが書かれています(2026年10月12日に確認)。

  • 登録した仲介会社やFAの、不適切な支援の情報を受け付ける。匿名でも受け付ける(2026年9月1日の公表資料)
  • 個別のもめごとの処理や助言はしない。その相談は弁護士などの専門家へ、と案内している
  • 情報提供への対応の要望や、調べた結果についての質問には答えない
  • 登録した機関は、売り手が窓口に相談したことだけを理由に、秘密保持の違反として訴えるなどの不利益な扱いをしないと誓約している

2024年5月付けの周知・注意喚起は、不適切な買い手とのマッチングの中で、仲介会社やFAの支援に不適切な点を感じたときは、この窓口への情報提供を検討するよう呼びかけています。

あと払いの条件を示されたときも、手元に残る額の見込みを先に知っておくと比べやすくなります。譲渡額5,000万円で計算する

よくある質問

社長 不適切な買い手の名前は、国が公表していますか?
案内役

この記事で読んだ国の公表資料(2024年5月から2025年3月まで)には、買い手の名前は書かれていません。書かれているのは、買い手の行為の形と、その買い手とのM&Aを支援した登録機関への措置です。

社長 仲介会社に、買い手をどう調べたか聞いてもいいのですか?
案内役

ガイドラインは、契約の前に、買い手に対して行う調査の概要を売り手に説明することを、仲介会社に求めています(17の事項の16番)。説明の書面に、調査の中身がどう書かれているかを確かめてください。

社長 情報共有の仕組みに加盟しているかは、どこで分かりますか?
案内役

国の登録支援機関データベースで、機関ごとに加盟の有無と運営主体が表示されています。このサイトの通信簿にも、届出のまま載せています。ガイドラインでは、契約の前に、参加しているかどうかを説明することにもなっています。

社長 会社を売れば、経営者保証は外れますか?
案内役

国のチラシには、クロージングのあとも保証が移されず、経営者が債務を負った事例が載っています。ガイドラインは、保証の解除や移行を、最終契約で買い手の義務としてはっきり位置づけることを検討するよう、仲介会社に求めています。最終契約の案で、保証の扱いを確かめてください。

社長 代金の一部をあとで払うという条件を示されました。
案内役

国のチラシは、クロージングの時点では低い代金で、一定期間のあとに相当の代金を払う、という条件を示されている場合を「特に注意!」としています。どう判断するかは、弁護士などの専門家や、事業承継・引継ぎ支援センターに別の意見を聞くことができます。

社長

保証のことは、会社を売れば終わりだと思っていました。最終契約の案が来たら、保証と支払いの書き方を一つずつ確かめます。

案内役

国のチラシの事例も、保証と、あと払いのお金に関わるものでした。分からないところは、センターや専門家に別の意見を聞けます。

このデータについて

  • 出典:M&A支援機関登録制度HP 登録支援機関データベースを加工して作成(取得日 2026年10月12日)。データは各機関の届出(自己申告)です
  • 加盟の数は、データベースの「不適切な譲り受け側に係る情報共有の仕組みへの加盟有無」が「現在加盟している」の機関を数えました。機関の種類は、届出の「M&A支援機関の種類」の大きな分け方です。本店の都道府県は届出の本店所在地です
  • 国の注意・登録取消は、中小企業庁の公表資料の引用と日付だけを載せています。社名が公表されたものも、この記事には書いていません
  • 当サイトは、買い手の評価や、仲介・交渉、価格や税についての助言は行いません。契約の中身は、各機関に書面で確かめてください

出典