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相続と承継

社長交代の進め方|会社を引き継ぐ手順と、事業承継計画の作り方

子どもや社員に社長を譲るときの進め方を、中小企業庁の事業承継ガイドライン、会社法、法務局の記載例で整理しました。5つのステップ、事業承継計画表の欄と記入例、後継者育成、代表取締役の交代と登記、株の渡し方、売る道との違いを並べています。

書いた人

M&A仲介の通信簿 編集部

国の「M&A支援機関登録制度」の届出を毎月取り込み、仲介会社の手数料を同じ条件で計算して載せています。記事は中小企業庁のガイドラインなど公的な資料にもとづいて書き、仲介や交渉、価格や税の助言はしません。

町工場を背景に、社長と案内役が、テーブルの上のなだらかな階段の模型と、その上の椅子のミニチュアと鍵を見ているアイソメトリックのイラスト
社長

60代の半ばになり、息子か、長く勤めてくれている番頭格の社員に、社長を譲ることを考え始めました。何から、どんな順番で進めればいいのでしょうか。

案内役

社長の交代は、代表取締役を代える手続きに、株を渡すこと、後継者を育てることが組み合わさった取り組みです。国の事業承継ガイドラインの5つのステップと、会社法・法務局の記載例に書かれていることを、順番に並べます。継ぐか売るかを決めるのは社長ご自身で、このサイトはどちらもすすめません。

先に結論

  • 中小企業庁の事業承継ガイドラインは、事業承継を「株式の承継」と「代表者の交代」だけと考えるのは足りないとし、渡すものを人(経営)・資産・知的資産(理念・技術・取引先との人脈など)の3つに分けています
  • 準備は5つのステップ(準備の必要性に気づく → 会社の見える化 → 磨き上げ → 事業承継計画 → 実行)で進みます。ガイドラインは、経営者が概ね60歳になったころに準備に取りかかることが望ましいとしています
  • 後継者を決めてから引き継ぎを終えるまでに、3年以上かかるとした会社は51.9%でした(ガイドラインが引く2021年の民間の調査)。後継者になることが決まった人の答えでは、経営者になるための準備期間は5年以上が約5割です
  • 事業承継計画は、10年後を見すえて「いつ・どのように・何を・誰に」渡すかを決める計画です。中小企業基盤整備機構(中小機構)の事業承継計画表は、現在から10年目までの欄に、事業計画・会社の定款と株式・現経営者・後継者の予定を書き込む形です
  • 代表取締役は、取締役会のある会社は取締役会で、ない会社は定款・取締役どうしの互選・株主総会のどれかで決めます。変わったら2週間以内に法務局で登記し、登録免許税(登記のときに納める税)は資本金1億円以下の会社で1万円です(会社法・登録免許税法)
  • 株の渡し方には、生前の贈与・売買・相続(遺言)があり、税や手続きがそれぞれ違います。中小機構の冊子は、後継者が持つ議決権(株主総会で賛否を投じる権利)の目安を3分の2以上としています
  • 継ぐ人が見つからないときは、社外に引き継ぐ(売る)道もあります。手数料を引いた額は譲渡額3,000万円で計算するのように確かめられます

社長交代の全体の流れ(国の5つのステップ)

社長

まず、全体としてどんな順番で進むものなのですか。

案内役

事業承継ガイドラインは、準備を5つのステップに分けています。家族や社員に継ぐ場合と社外に引き継ぐ場合で、4つ目のステップから道が分かれます。

事業承継ガイドライン(第3版、31〜46ページ)に書かれている5つのステップです。ガイドライン全体の読み方は事業承継ガイドラインを社長向けににまとめています。

ステップ すること ページ
1 準備の必要性に気づく 後継者教育などにかかる期間を考え、経営者が概ね60歳に達したころに準備に取りかかることが望ましい。60歳を超えていれば、すぐにでも身近な支援機関に相談する 32
2 会社の見える化 決算書が正しく作られているかの点検、自社株の数の確認と株価の評価、社長個人と会社の貸し借り・保証・担保の整理、後継者候補の有無と意思の確かめ 32〜34
3 磨き上げ(経営の改善) 本業を強くし、後継者が継ぎたくなる会社にする 36〜42
4-1 事業承継計画を作る(家族・社員に継ぐ場合) 10年後などを見すえ、いつ・どのように・何を・誰に渡すかを計画にする 42〜44
4-2 M&Aの工程(社外に引き継ぐ場合) 仲介者・FAの選定、相手探し、交渉、基本合意、デューデリジェンス、最終契約、クロージングなど 44〜46
5 実行 計画に沿って、株などの資産を移し、経営権を渡す。税や法律の手続きが要ることが多い 46

ステップ5について、ガイドラインは、状況の変化に合わせて計画を直しながら進めること、弁護士・税理士・公認会計士などの協力を得ながら実行することが望ましいことを書いています(46ページ)。交代のあと(ポスト事業承継)は、後継者が新しい視点で事業を見直すことが期待されるとしています。

準備の進み具合について、国の資料には次の数字があります。

  • 2026年版中小企業白書(Ⅰ-53ページ)は、中小企業の経営者の年齢について、2025年は60歳以上の経営者が過半数を占めているとしています
  • ガイドライン(14〜15ページ、図表15)が引く民間の調査(2020年)では、社長が60代の会社で、事業承継の計画が「あり、進めている」は25.5%、「あるが、まだ進めていない」は24.9%、「計画はない」は31.3%でした

ガイドライン(32ページ)は、商工会・商工会議所や金融機関などの身近な支援機関が、準備のきっかけとして「事業承継診断」を行っていると書いています。

会社を引き継ぐときに渡す3つのもの

町工場の作業場で、社長が使い込まれた工具と機械を示しながら、案内役に説明している場面
社長

社長の肩書きと株を息子に渡せば、それで済むのではないのですか。

案内役

ガイドラインは、それでは足りないと書いています。渡すものを、人(経営)・資産・知的資産の3つに分けています。

事業承継ガイドライン(27〜29ページ、図表27)は、事業承継が単に「株式の承継」と「代表者の交代」だと考えられ、税や株価の話に終わってしまう傾向があると指摘しています。そのうえで、後継者に渡す経営資源を次の3つに分けています。

渡すもの 中身の例(図表27) 主な進め方
人(経営) 経営権、後継者の選定、後継者教育 会社なら代表取締役の交代。後継者を早めに選び、育てる
資産 株式、事業用資産(設備・不動産など)、資金(運転資金・借入など) 会社の資産の価値は株に含まれるため、株の承継が基本。贈与税・相続税がかかることがある
知的資産 経営理念、従業員の技術や技能、ノウハウ、経営者の信用、取引先との人脈、顧客情報、知的財産権(特許など)、許認可 社長が自社の強みを自ら整理し、後継者と対話して認識をそろえる

3つについて、ガイドラインと中小機構の冊子には次の記述があります。

  • 株式の承継は、事業承継の取り組み全体の中では資産の承継の一部に過ぎない(ガイドライン 28ページ)。中小機構の冊子(10ページ)も、相続対策は事業承継の取り組みの一部に過ぎないとしています
  • 社長個人の借入れや、会社の借入れについての個人保証・担保は、対応しないと、交代のあとも前の社長が負担を負い続けることになる(ガイドライン 82ページ)
  • 経営者の交代で社員との信頼関係が失われ、社員が大勢辞めた事例もある。会社の強みがどこにあるかを後継者が深く理解することが要る(ガイドライン 29ページ)

社長の個人保証(経営者保証)の扱いは、経営者保証(個人保証)はM&Aで解除される?にまとめています。

事業承継計画の作り方と、計画表の欄

社長

事業承継計画というのは、どんなものを作るのですか。

案内役

ガイドラインは、会社の将来(たとえば10年後)を見すえて、いつ・どのように・何を・誰に渡すかを決める計画だとしています。中小機構は、書き込む様式と記入例も出しています。

事業承継ガイドライン(42〜44ページ)は、事業承継計画について次のように書いています。

  • 後継者や親族と一緒に、取引先・社員・取引金融機関との関係を念頭に置いて作り、作ったあとは関係者と共有しておくことが望ましい
  • 計画書を作ること自体が目的ではなく、現経営者と後継者が対話しながら作る過程や、計画を使って円滑に引き継ぐことに意味がある
  • 作る前に、経営者が過去から今までを振り返り、経営への想い・価値観・信条を確かめる。できれば文章にして、後継者・社員・取引先と共有する

ガイドライン(44ページ)が挙げる作り方の順番は、次の5つです。

  1. 自社の現状を分析する(ステップ2の見える化をもとにする)
  2. これからの環境の変化を予測し、対応策と課題を考える
  3. 事業承継の時期と方法を盛り込んで、事業の方向性を決める
  4. 売上・利益などの具体的な目標を決める
  5. 後継者を中心にした経営に移るときの課題と、そのために要る行動(支援機関への相談、資金の用意など)を整理する

中小機構は、冊子「中小企業経営者のための事業承継対策」(令和8年度版)と、Excelの「事業承継計画表記入様式」を公開しています。様式の欄は次のとおりです。

欄 書くこと
社名・後継者・基本方針 後継者が親族内か親族外か。誰に、いつ、どう引き継ぐか
事業計画 売上高と経常利益の目標(現在から10年目まで、年ごと)
会社 定款・株式・その他(記入例:定款の見直し、相続人に対する売渡請求の導入、分散した株の買い取り、退職金の支給)
現経営者 年齢、役職、関係者の理解、後継者教育、株式・財産の分配、持株の割合
後継者 年齢、役職、後継者教育(社内・社外)、持株の割合
補足 遺言など、ほかに決めておくこと

冊子(26〜30ページ)には、60歳の社長から、会社に勤める33歳の長男へ引き継ぐ製造業の会社の記入例が載っています。基本方針は「5年目に社長交代。代表権を長男に譲り、社長は会長に就く。10年目に引退」です。

時期 後継者(長男) 現経営者
計画のはじめ 社員(3年前に入社) 社長。家族会議で長男を後継者に決める
1年目 取締役 社内に計画を公表
3年目 専務 ―
5年目 社長 会長。退職金を受け取る
10年目 社長 引退

記入例では、そのあいだに後継者を工場・営業・本社の管理部門と順に回らせ、外部の研修も受けさせています。株は毎年少しずつ贈与し、社長交代のころにまとめて贈与する計画です。冊子は、計画表の様式は各都道府県の事業承継・引継ぎ支援センターのホームページからも手に入ると書いています。中小機構の事業承継・引継ぎポータル(2026年10月16日に確認)は、センターが税理士や中小企業診断士などと連携し、事業承継計画づくりを無料で支援するとしています。

後継者育成の進め方と、かかる期間

社長

息子はまだ現場の仕事しか知りません。どうやって育てればいいのでしょうか。

案内役

ガイドラインは、社内での教育と社外での教育を組み合わせて、交代の時期に合わせて計画的に行うよう書いています。かかる期間は、短いとは言えません。

事業承継ガイドライン(57ページ、図表38)が挙げる後継者教育の例です。

場所 教育の例 期待される効果
社内 営業・財務・労務などの部門を順に経験させる 会社全体の経験と知識が身につく
社内 役員などの責任ある地位に就け、権限を移す 経営者としての自覚が生まれる
社内 現経営者が直接指導する 経営理念を引き継ぐ
社外 他社での勤務を経験させる 人脈ができ、新しい経営のやり方を学ぶ
社外 子会社・関連会社などの経営を任せる 責任感が育ち、経営者としての資質を確かめられる
社外 セミナーなどを使う 経営に必要な知識と、広い視野が身につく

社外で学ぶ場として、ガイドライン(58ページ)は商工会・商工会議所や金融機関などが開く「後継者塾」「経営革新塾」、中小企業大学校や大学を挙げています。中小機構の冊子(16ページ)は、中小企業大学校の経営後継者研修を挙げています。

かかる期間と、社長・後継者が感じている課題について、ガイドラインが引く調査の数字です。

項目 数字 出典
後継者を決めてから引き継ぎが終わるまでの期間(育成を含む) 3年以上が51.9%(3〜5年程度26.9%、6〜9年程度13.8%、10年以上11.2%)。分からないが27.8% ガイドライン 14〜15ページ(図表16、2021年の民間の調査)
後継者になることが決まった人が考える、経営者になるための準備期間 5年以上が約5割 同 55ページ(図表36、2019年版中小企業白書)
社長が挙げる事業承継の課題 「事業の将来性」52.6%に次いで、「後継者の経営力育成」44.0% 同 56ページ(図表37、2021年版中小企業白書)
後継者の候補が、継ぐことに前向きでない理由 「自身の能力の不足」57.6%がいちばん多い 同 56ページ

ガイドライン(25ページ)は、家族に継ぐ場合について、社長が自ら引退の時期を決め、育成に要る期間を逆算することが大切だとしています。社員に継ぐ場合(92ページ)は、社員は早くから経営者になることを意識しているとは限らないため、経理・総務・営業から経営企画まで幅広い仕事を経験させる、後継者塾や経営者の会合に参加させる、社内の大事なプロジェクトを任せる、といった育て方を挙げています。中小機構の冊子(20ページ)は、社員に継ぐ場合は早めに伝え、本人のはっきりした了解をとることが大切だとしています。

関係者への伝え方と、交代したあとの支え方

社長

社員や取引先には、いつ話せばいいのでしょう。交代したあと、私はどうしていればいいのでしょうか。

案内役

家族や社員に継ぐ場合、ガイドラインは早めに伝えることを求めています。交代したあとの支え方の例も挙げています。

家族に継ぐ場合について、事業承継ガイドライン(42・59〜60ページ)に書かれている伝え方です。社員に継ぐ場合も、社長の親族や取引先との対話が大切だとしています(93ページ)。

相手 ガイドラインに書かれていること
親族 後継者を誰にするかは親族にとっても強い関心事。早めに家族会議・親族会議を開き、社長の想いを伝えて、親族の同意を得ておく
社員 後継者の候補を知らないと、会社の将来への不安が募り、士気にも関わる。後継者の候補と事業承継計画を早めに知らせておく
取引先・金融機関 後継者の候補を紹介し、計画をはっきり示したほうが、取引を続けるうえで有益。早めに説明する。前の社長の個人保証の処理が問題になることもある

社外に引き継ぐ(売る)場合は逆に、秘密を守るため、社員や取引先には原則としてクロージング(株や事業を渡し、代金を受け取ること)のあとに知らせると、中小M&Aガイドライン(31ページ)は書いています。順番は家族と社員に、会社を売ることをいつ・どう伝えるかにまとめています。

社員に継ぐ場合について、ガイドライン(93ページ、図表44)は、後継者が引き継ぎやすい環境づくりの例を挙げています。

  • 若い後継者に協力的でない年配の取締役に、その後継者を選んだ考えと、その取締役への期待を説明する
  • 後継者が経営を進めやすいように、経営陣の体制を変える
  • 外から招いた後継者が、就任してすぐに全社員を集めて経営方針を話す場を設ける
  • 交代のあとも、会長などとして後継者を支え、経営判断や社内外のもめごとについて助言する

中小機構の冊子(20ページ)も、交代のあと一定の期間、前の社長が後継者を支えることが有効な場合もあるとしています。ガイドライン(47ページ)は、経営者の交代があった中小企業では、交代のなかった中小企業より売上高や利益の伸びが高いとの報告もあると書いています。

代表取締役の交代と登記の手続き

取締役を選ぶ、代表取締役を選ぶ、2週間以内に登記、税務署などに届出の順に、代表取締役の交代の手順を示した図
社長

法律の手続きとしては、何をするのですか。

案内役

株式会社なら、取締役会があるかどうかで、代表取締役の選び方が変わります。決まったら2週間以内に法務局で登記し、税務署などにも届け出ます。

事業承継ガイドライン(28・60ページ)は、会社の場合、経営の承継は代表取締役(会社を代表する取締役)の交代によるものだとしています。前の社長が代表取締役を辞め、後継者が就くには会社法の手続きが要り、後継者がすでに取締役でも、取締役会のある会社では取締役会の決議、ない会社では定款の定めに従った手続きが原則として別に要ると書いています。

会社法で決まっている、代表取締役の決め方です(2026年10月16日に e-Gov で確認)。

会社の形 代表取締役の決め方 会社法
取締役会がある会社 取締役会が、取締役の中から選ぶ 362条2項3号・3項
取締役会がない会社 定款、定款に基づく取締役どうしの互選、株主総会の決議のどれかで、取締役の中から定める。定めなければ、取締役がそれぞれ会社を代表する 349条1〜3項

社長を交代するときの主な手続きです。

順 すること 期限・決まり 根拠
1 後継者がまだ取締役でなければ、株主総会で取締役に選ぶ 議決権の過半数を持つ株主が出席し、その過半数の賛成(出席の割合は定款で3分の1まで下げられる) 会社法329・341条
2 上の表のやり方で、後継者を代表取締役に選ぶ。前の社長は代表取締役を辞める(辞任届) 就任の承諾をとる 会社法349・362条、法務局の記載例
3 本店の所在地の法務局で、変更の登記をする 変わってから2週間以内。登録免許税は1件3万円(資本金1億円以下の会社は1万円) 会社法911条3項14号・915条、登録免許税法 別表第一 第24号(一)カ
4 税務署に「異動届出書」を出す(代表者の変更) 異動のあと速やかに。異動前の納税地の税務署へ 国税庁 C1-8
5 日本年金機構に「事業所関係変更(訂正)届」を出す 「事実発生から5日以内(諸変更については、事実発生後、速やかに)」と案内 日本年金機構の案内

登記の書類について、法務局の記載例と添付書面の一覧で確かめた点です(2026年10月16日)。

  • 主な書類は、株主総会の議事録、株主リスト、就任承諾書、印鑑証明書や本人確認証明書、辞任届などです。代表取締役の選び方(取締役会・株主総会・互選など)によって、要る議事録や印鑑証明書が変わります
  • 取締役会のある会社で新しく代表取締役になる人と、取締役会のない会社で新しく取締役になる人は、就任承諾書に市町村に登録した印鑑を押し、その印鑑証明書を付けます
  • 登記所に印鑑を届け出ている前の社長が辞めるときは、辞任届に届け出た印鑑か、市町村に登録した印鑑を押します(後者は印鑑証明書も付けます)

会社法(976条1号)は、登記を怠ったときは100万円以下の過料に処すると定めています。年金事務所の届では、変わったあとの社長が、変わる前と後の社長の氏名・住所・変更の日を書きます。変わる前の社長の住所の書き漏れが多いと、日本年金機構は案内しています。地方税(都道府県・市町村)や、業種ごとの許可の届出は、それぞれの窓口で確かめてください。

株の渡し方と、議決権の目安

社長

株は、いつ、どうやって息子に渡せばいいのでしょう。

案内役

渡し方には、生前の贈与、売買、相続(遺言)があり、税や手続きが違います。いつ・どの方法にするかは、税理士などと決めることです。ここでは国の資料に書かれているしくみだけを並べます。

渡し方 しくみ 国の資料に書かれている注意点
生前の贈与 社長が元気なうちに、後継者に株を渡す 株の分散を防ぐいちばんシンプルな方法で、社長の助言を受けながら引き継げる。一定額以上なら贈与税がかかる(ガイドライン 71〜72ページ)。ほかの相続人の遺留分による制約を受ける(冊子 18ページ)
売買 後継者が株を買い取る。社員に継ぐときに多い 買い取るお金の用意が高い壁になりやすい。金融機関からの借入れ、後継者の役員報酬の引き上げ、会社からの借入れなどが一般的(ガイドライン 95ページ。公的な融資は事業承継の融資)
相続・遺言 社長が亡くなったときに、遺言などで後継者に渡す 遺言がないと、遺産分割で株が分散したり、争いになったりすることがある。まず公正証書遺言の作成を検討する(ガイドライン 72〜73ページ)

社長や株主が亡くなったときの株の扱いと、名義株の整理は自社株の相続にまとめています。

遺留分は、兄弟姉妹以外の相続人に、最低限の取り分を保障する民法の制度です(冊子 17ページ)。ガイドライン(74〜76ページ)は、推定相続人全員の合意などを条件に、後継者に贈与した株を遺留分の計算から外したり、価額を合意したときの額に固定したりできる「遺留分に関する民法の特例」(経営承継円滑化法)も紹介しています。

株を渡すときの会社の手続きは、会社法で決まっています。

  • 株を取得した人の氏名・住所を株主名簿に記載しないと、株の譲渡を会社やほかの人に主張できません(130条)。ガイドライン(60ページ)は、贈与などで株を渡すときは、株主名簿の書き換えや、贈与なら贈与税の申告などの手続きが要るとしています
  • 定款で、株を譲るのに会社の承認が要ると決めている会社(譲渡制限株式)では、承認するかどうかを株主総会(取締役会のある会社は取締役会)で決めます。定款に別の定めがあれば、それに従います(136・139条)
  • 相続で株を取得した人に、会社へ株を売り渡すよう請求できると、定款で定めることもできます(174条。譲渡制限株式に限る)

後継者が持つ株の割合について、中小機構の冊子(17ページ)は、後継者が安定して経営するには株を集中させることが必要とし、株主総会で大事なことを決めるのに要る3分の2以上の議決権の確保が目安だとしています。会社法の決議の決まりは次のとおりです。

決議 決まり 例 会社法
普通決議 議決権の過半数を持つ株主が出席し、出席した株主の議決権の過半数で決める 取締役を選ぶ 309条1項・341条
特別決議 議決権の過半数を持つ株主が出席し、出席した株主の議決権の3分の2以上で決める 定款の変更など 309条2項

贈与税・相続税の負担を軽くする国の制度(事業承継税制)のしくみと期限は、事業承継税制とはにまとめています。

継ぐ道と売る道の違い

社長

息子が継がないと言ったら、売ることも考えたほうがいいのでしょうか。

案内役

どちらを選ぶかは社長ご自身が決めることです。事業承継ガイドラインと中小機構の冊子に書かれている違いを並べます。

比べる点 家族・社員に継ぐ 社外に引き継ぐ(売る)
後継者 子などの親族、親族以外の役員・社員 社外の会社や個人
ガイドラインが挙げる特徴 関係者に心情的に受け入れられやすく、準備の期間を長くとれる(親族)。能力のある人を見極めて継がせられ、経営の方針を保ちやすい(社員) 親族や社内に適任者がいなくても、広く外に候補を探せる。社長は会社を売った利益を得られる
気をつける点 後継者の育成、株を渡すときの税や買い取るお金、親族の株主の了解、経営者保証 社員の雇用や価格など、希望の条件を満たす相手を見つけるのが難しいことがある。時間に余裕をもって臨む
進め方 事業承継計画を作って実行する(ステップ4-1) M&Aの工程に進む(ステップ4-2)
かかる時間の目安 後継者を決めてから引き継ぎを終えるまでに、3年以上かかるとした会社が51.9% 相手探しに通常数か月〜1年程度、成約後の引き継ぎの作業に3か月〜1年程度
社長が受け取るお金 社員などが株を買い取る場合は、その代金 譲渡額から、仲介会社などへの手数料と税を引いた額

表の出典は、事業承継ガイドライン(14〜15・25〜27・95ページ)、中小機構の冊子(15ページ)、中小M&Aガイドライン(30・57ページ)です。事業承継ガイドライン(28ページ)は、家族や社員に継ぐための後継者選びを進めるだけでなく、状況によってはM&Aの可能性も視野に入れて検討を進めるよう書いています。

売った場合に手数料を引いた額は、国に届け出られた手数料から、計算機で機関ごとに確かめられます。

計算機の「手取り」は、税を引く前の額です。家族・社員・社外・廃業の4つの道の比べ方は後継者がいない会社の選択肢に、売る流れは会社を売るにはに、税のしくみは会社を売却したときの税金と手取りにまとめています。

よくある質問

社長 社長を交代すれば、前の社長の個人保証は外れますか?
案内役

交代するだけで、保証の扱いが決まるわけではありません。事業承継ガイドライン(82ページ)は、社長個人の保証や担保に対応しないと、交代のあとも前の社長が負担を負い続けることになるとしています。同じガイドライン(83ページ)が引く中小機構のアンケートでは、保証を外したいと考える経営者のうち、金融機関に申し出・相談した人は14.5%にとどまり、申し出た人の4割が解除されたと答えていました。取引のある金融機関と早めに話し合い、迷うときは弁護士にも確かめてください。しくみは経営者保証(個人保証)はM&Aで解除される?にまとめています。

社長 取締役会のない小さな会社でも、登記は要りますか?
案内役

要ります。株式会社は代表取締役の氏名と住所を登記していて(会社法911条3項14号)、変わったときは2週間以内に本店の所在地で変更の登記をします(915条)。登録免許税は1件3万円で、資本金1億円以下の会社は1万円です。登記を怠ると、100万円以下の過料に処されることがあります(976条1号)。手続きは司法書士に頼むこともできます。

社長 事業承継計画は、どこで相談しながら作れますか?
案内役

中小機構の事業承継・引継ぎポータルによると、国が47都道府県に置く事業承継・引継ぎ支援センターが、税理士や中小企業診断士などと連携して、事業承継計画づくりを無料で支援しています。簡易版の事業承継診断と事業承継計画も作れるとしています。計画表の様式(Excel)は、中小機構のホームページで公開されています。センターの使い方は事業承継・引継ぎ支援センターとはに、窓口の案内は相談するのページにまとめています。

社長 交代したあと、前の社長は会社に残ってもいいのですか?
案内役

国の資料には、残って支える例が載っています。事業承継ガイドライン(93ページ)は、交代のあとも会長などとして後継者を支え、助言することを、後継者が引き継ぎやすい環境づくりの例に挙げています。中小機構の冊子の記入例(27ページ)でも、社長は交代のときに会長になり、退職金を受け取り、5年後に引退しています。どうするかは、後継者や関係者と話し合って決めることです。役員退職金の決め方は社長の退職金の決め方と計算に、税のしくみは会社を売却したときの税金と手取りにまとめています。

社長

まず自分の引退の時期を決めて、そこから逆算して、息子と一緒に計画表の10年分の欄を埋めてみます。株と保証のことは、税理士と銀行に確かめます。

案内役

引退の時期を決めて、育成に要る期間を逆算することは、ガイドラインが大切だとしていることです。継ぐか売るかも含めて、決めるのは社長ご自身です。計画を作る過程で、息子さんとよく話し合ってください。

このデータについて

  • 5つのステップ、事業承継計画、後継者教育、関係者への伝え方、経営の承継の実行は、中小企業庁の事業承継ガイドライン(第3版・2022年3月改訂)の記述です。ページ番号はページに印字された番号です。2026年10月16日に、中小企業庁のサイトのPDFで確かめました
  • 計画の有無・移行の期間・準備期間・課題の数字は、ガイドラインが引く民間の調査会社の調査や、2019年版・2021年版の中小企業白書のアンケートによるものです。図の中の数字はPDFのページを画像にして読みました。経営者の年齢は、2026年版中小企業白書(Ⅰ-53ページ)の記述によります
  • 事業承継計画表の欄と記入例は、中小機構の冊子「中小企業経営者のための事業承継対策」(令和8年度版)と、Excelの事業承継計画表記入様式によります(2026年10月16日に確認)。冊子のページ番号は、ページに印字された番号です
  • 会社法と登録免許税法は e-Gov 法令検索で、登記の書類は法務局の記載例と添付書面の一覧で、届出は国税庁と日本年金機構の案内で確かめました(2026年10月16日)。株式会社の例です。合同会社や個人事業主は手続きが違います
  • 中小M&Aガイドライン(第3版・2024年8月)のページ番号は、各ページ下の「n / 139」の番号です
  • 当サイトは、継ぐか売るかの助言や、税・法律・登記・保証についての助言は行いません。個別の手続きは、税理士・弁護士・司法書士や国の窓口に確かめてください

出典