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契約

株式譲渡契約書の主な条項|売り手の社長が署名の前に確かめること

株式譲渡契約書は、会社の株式を買い手に渡す条件を決める最終契約です。譲渡価格と支払い、クロージングの条件、表明保証と補償、役員の退任と退職金、競業避止、経営者保証、秘密保持の条項と、署名の前に確かめる点を、国のガイドラインと契約書のサンプル、会社法で表にしました。

書いた人

M&A仲介の通信簿 編集部

国の「M&A支援機関登録制度」の届出を毎月取り込み、仲介会社の手数料を同じ条件で計算して載せています。記事は中小企業庁のガイドラインなど公的な資料にもとづいて書き、仲介や交渉、価格や税の助言はしません。

町工場と向こう岸の建物をつなぐ、書類のページを板にした橋のたもとで、社長が橋板を虫眼鏡で確かめ、案内役が次の板を示しているアイソメトリックのイラスト
社長

買い手の側から、「株式譲渡契約書」の案が届きました。何十ページもあって、どこから読めばいいのか分かりません。署名したら、あとから直すのはむずかしいのでしょうか。

案内役

株式譲渡契約書は、会社を引き渡す条件と双方の義務を決める「最終契約」なので、署名の前に中身を確かめておくことが大切です。国の中小M&Aガイドライン(第3版)と、国が出している株式譲渡契約書のサンプル、会社法で、条項ごとに何を決めるのか、売り手が署名の前に何を確かめるのかを並べます。条項の中身の判断は、弁護士に確かめてください。

先に結論

  • 株式譲渡契約書(株式の譲渡契約書)は、株主(多くは社長)が持つ会社の株式を買い手に渡す条件を決める最終契約です。基本的に法的な拘束力がない基本合意書と違い、双方の権利と義務を決める重要なものとされています(中小M&Aガイドライン 21・98ページ)
  • ガイドラインは、最終契約で決める主な中身として、譲渡の対象・時期・代金、支払いの時期と方法、社長と社員の処遇、経営者保証の扱い、表明保証、補償、クロージングの前提条件、競業避止、解除の理由を挙げています(49ページ)
  • 代金は、ふつうクロージング(株式と代金を引き換える日)に初めて払われます。分割払い、退職慰労金のあと払い、あとから額が変わる条項などは、争いになりうるとして慎重な検討を求めています(49・53〜55ページ)
  • 国のサンプルでは、補償の上限・請求できる期間・競業避止の年数は「●」の空欄です。数字は案件ごとに当事者が決めるので、案に書かれた数字を一つずつ確かめます
  • 経営者保証は、買い手の義務としてはっきり書き、外れなかったときの解除や補償も入れることが大事だとされています。国のサンプルには、クロージングから3か月たっても保証が外れないときなどに、売り手が1年以内なら契約の解除か株式の買戻しができる条項があります(ガイドライン 52ページ、参考資料7 22ページ)
  • 最終契約は、できる限り中小M&Aにくわしい弁護士の関与のもとで結ぶことが望ましいとされています(ガイドライン 98ページ)
  • 代金から手数料を引いた額は、計算機で見ておけます:譲渡額5,000万円で計算する

株式譲渡契約書とは

社長

「株式譲渡契約書」と、少し前に結んだ「基本合意書」は、何が違うのですか。

案内役

基本合意書は、交渉の途中で、その時点の了解事項を確かめる書面です。株式譲渡契約書は、買い手の調査のあとに、株式を渡す条件と双方の義務を決めて約束する、最後の契約です。

中小M&Aガイドライン(第3版)は、株式譲渡を、会社の株主(多くの場合は社長)が、買い手に会社の株式を譲る方法だとしています。手続きは比較的シンプルですが、会社そのものは変わらないため、帳簿に出ない債務(未払いの残業代など)や、これから生じうる債務のリスクが比較的高くなりやすく、より細かい調査が行われる傾向があるとしています(48ページ)。

M&Aは、基本合意、買い手の調査(デュー・ディリジェンス)、最終契約の交渉と締結、クロージングの順に進みます。最終契約は、調査で見つかった点や、基本合意で決めずに残した点を交渉し直して結ぶ契約です(47〜48ページ)。ガイドラインは、基本合意書は基本的に法的な拘束力がないものの、独占して交渉する権利や秘密保持には拘束力を認めるのが通常だとし(21ページ)、最終契約は、双方の権利と義務を決める重要なものだとしています(98ページ)。株式譲渡のときの最終契約が、株式譲渡契約書です。

中小企業庁は、ガイドラインの参考資料7として、M&Aでよく使う契約書のサンプルを出しています(2025年12月15日時点版・1ページ)。

国のサンプル(参考資料7) 結ぶ人 くわしい記事
仲介契約書 売り手の株主と、仲介会社 M&A仲介の契約の前に確かめること
秘密保持契約書 売り手と買い手が直接結ぶ場合 M&Aの書類
基本合意書 株式譲渡を前提に、売り手の株主(1人)と買い手 M&Aの書類
株式譲渡契約書 売り手の株主(1人)と買い手 この記事
事業譲渡契約書 売り手の会社と買い手 株式譲渡と事業譲渡の違い

株式譲渡契約書のサンプルは、株主1人が、会社の発行済みの株式をすべて買い手に譲る場面を前提にしています。頭には、あくまで例で、当事者の意向を縛るものではなく、具体的な中身は当事者の調整で決まり、必要に応じて弁護士などの専門家に相談することが望ましいと書かれています。簡単な形として、目的・株式の譲渡・譲渡価格・譲渡の実行・売り手の義務・買い手の義務・解除・解除の特則と買戻し・秘密保持・誠実協議の10の条だけを置く例もありうる、という注もあります(1・16ページ)。

主な条項と、売り手が確かめる点の一覧

社長

条項がたくさんあって、どれが大事なのか分かりません。

案内役

ガイドラインが挙げる主な中身を、国のサンプルの条に当てはめて並べます。条の番号はサンプルのもので、実際の契約書では番号も書き方も違います。

ガイドラインは、最終契約で決める主な中身は株式譲渡でも事業譲渡でも同じだとしたうえで、その中身を契約の相手と交渉して決めていくときも、売り手が自分で十分に確かめることが大事だとしています(49ページ)。国のサンプル(参考資料7 16〜29ページ)の条項と、売り手の側から確かめる点は次のとおりです。

条項(サンプルの条) 何を決めるか 売り手が確かめる点
株式の譲渡(2条) どの株式を、いつ(クロージング日)譲るか 譲る株式の数と、クロージング日
譲渡価格(3条) 株式の代金の額(1株あたりの額も) 合計の額。あとから額が変わる条項がないか
譲渡の実行(4条) クロージング日に、代金の支払いと、株券や書類の引き渡しを引き換える 振込先と、渡す書類の一覧
クロージングの前提条件(5・6条) 引き換えの前に満たしておく条件 自分が満たす条件と、満たせないときの扱い
表明保証(7・8条と別紙) 会社や当事者について「真実で正確だ」と約束する事項 事実と違う所がないか。範囲が広すぎないか
クロージング前の義務(9・10条) 契約からクロージングまでにすること 会社の承認の決議、ふだんどおりの経営、買い手の保証の手続き
役員退職慰労金(11条) 辞める社長に払う退職慰労金の額と払い方 額・払う時期・払う人
役員の退任(12条) 社長とほかの役員の辞任 辞める日と、ほかの役員の扱い
引継ぎ・競業避止(13条) 引継ぎへの協力、同じ仕事で張り合わない約束、社員を誘わない約束 期間(年数)と、禁止される仕事の範囲
買い手の義務(14条) 社員の雇用、保証の解除と補償 社員の雇用の書き方、保証を外す期限
解除・買戻し(15条・15条の2) 契約を解除できる場合 保証が外れないときに、解除や買戻しができるか
補償(16・17条) 表明保証の違反などで生じた損害の埋め合わせ 上限・小さな損害の線・請求できる期間
秘密保持・公表(18・19条) 秘密を守る期間と、公表する日 弁護士などに相談できるか。社員や取引先に知らせる日
費用・完全合意・裁判所(20・23・26条) 費用の負担、契約より前の約束の扱い、争いを扱う裁判所 口頭で聞いた約束が、契約書に入っているか

次の節から、社長に関わりの深い条項を順に見ます。

譲渡価格・支払いとクロージングの条件

最終契約に署名し、前提条件を満たしてから、代金と株券を引き換え、株主名簿を書き換えるまでの流れを示した図
社長

代金は、契約書に署名した日に入るのですか。

案内役

ふつうは署名の日ではなく、クロージングの日に、株券や書類と引き換えに払われます。クロージングまでに満たす条件も、契約書に書かれます。

ガイドラインは、譲渡の代金はクロージングを迎えて初めて払われるのが通常で、最終契約からクロージングまでについて、契約に条件(クロージングの前提条件)が決められることもあるとしています。最終契約を結んだだけで全部が終わるわけではない、とも書いています(49ページ)。クロージングでは、買い手から代金の全部または一部が入金されたことを確かめることが必要だとしています(56ページ)。

国のサンプルの決め方は、次のとおりです(参考資料7 17〜18ページ)。

  • 譲渡価格: 株式の代金を「金●●円(1株あたり金●●円)」と決める(3条)
  • 引き換え: クロージング日に、売り手は代金の支払いを受けるのと引き換えに、印鑑証明書、株券、会社の取締役会の承認の議事録の写し、役員の辞任届、株主名簿の写しを渡す。買い手は、書類を受け取るのと引き換えに、代金を振り込む(4条1〜3項)
  • 前提条件: 売り手の表明保証がクロージング日にも真実で正確であること(小さな誤りは除く)と、売り手の義務がすべて果たされていることが、買い手が払う前提。買い手の側にも同じ形の条件がある(5・6条)
  • 満たされないとき: 条件が一部でも満たされないと、相手は自分の義務を果たすのを拒める。条件を外して進めることもできるが、それで表明保証の違反などの責任が軽くなるわけではない(5・6条)

会社の承認と株券・株主名簿: 多くの中小企業は、株式がすべて譲渡制限株式(譲るときに会社の承認が要る株式)で、株式譲渡には会社の承認が要る、とサンプルの注にあります(17ページ)。クロージングの書類は、会社法の次の決まりにつながっています。

書類・手続き 会社法の決まり 国のサンプル
会社の承認の決議 譲渡制限株式は、譲るときに会社の承認が要る株式(2条17号)。株主は、承認するかどうかを決めるよう会社に求めることができ(136条)、会社は株主総会(取締役会のある会社は取締役会)の決議で決める。定款に別の定めがあれば、それに従う(139条1項) 売り手が、クロージングまでに会社の取締役会に承認の決議をさせる(9条1号)
株券 株券を発行するかどうかは定款で決める(214条)。株券を発行する会社では、株券を渡さないと譲渡の効力が生じない(128条1項) 株券を発行する会社を前提に、株券を渡したときに効力が生じる(4条4項)
株主名簿の書き換え 株主名簿に買い手の名前と住所を書かないと、会社など(株券を発行する会社では会社)に対して譲渡を主張できない(130条)。書き換えは、原則として買い手が売り手と一緒に会社に求める(133条) クロージングのあと、すぐに会社に名義を書き換えさせる(4条5項)

定款の定めや取締役会のあるなしで、要る手続きは会社ごとに変わります。社内の手続きの全体は、株式譲渡と事業譲渡の違いにまとめています。

代金の払い方で、慎重な検討を求められているもの: ガイドラインは、支払いや手続きをクロージングのあとにする形や、最終契約のあとに額を調整する条項は、解釈の違いなどで争いになるリスクがあるとしています(53〜56ページ)。

形 中身 ガイドラインが挙げるリスク
代金の分割払い クロージングのあとに分けて払う 事業や買い手の状況で払われないおそれ。払う期間が長いほど高い(53ページ)
退職慰労金のあと払い クロージングのあとに社長などへ払う 払われないおそれ(54ページ)
株式の段階的な取得 株式を何回かに分けて買う 意向が変わり、実行されないおそれ(54ページ)
アーンアウト条項 クロージング後の一定期間(3年以内が多い)に売上などの目標を達成したら、追加で払う 目標や額があいまいだと争いになる。払われないおそれ(54〜55ページ)
株価調整条項 最終契約からクロージングまでの会社の価値の変化で、額を調整する 計算のしかたがあいまいだと争いになる(55ページ)
支払金の返還の条項 過去の決算の修正などがあれば、払った代金を返す 返す場面があいまいだと争いになる(55ページ)
最終契約からクロージングまでの間 2か月以上などの期間を置く 業績などの変化で、契約の修正や不履行のおそれ(55〜56ページ)

仲介会社・FAには、これらのリスクに気づいた段階で、中身と、表に出たときに起こりうる結果を、できる限り具体的に説明することが望ましいとされています(97ページ)。代金から手数料を引いた額は、譲渡額1億円で計算するのように計算機で見られます(税や補償、あと払いの分は含みません)。

表明保証と補償

社長

表明保証と補償の条項が、いちばん長いようです。

案内役

売ったあとまで続く約束なので、別の記事でくわしく見ています。ここでは、国のサンプルで何を決めているかだけを並べます。

表明保証は、決まった事項が「真実で正確だ」と相手に約束する条項です。国のサンプルでは、売り手が、契約を結ぶ日とクロージングの日に、別紙1の事項(決算書が正しい、社員との争いがない、など)が真実で正確だと買い手に約束します(参考資料7 7条・18ページ、別紙1 33・35ページ)。別紙1の注は、契約書の案のやりとりをくり返すうちに、売り手が知らないうちに広すぎる範囲で約束していて、あとで争いになる例もあるとし、売り手自身でも中身を確かめ、必要に応じて弁護士などに見てもらうことが望ましいとしています(31ページ)。

違反があったときの補償について、サンプルは次の3つを決める欄を置いています。どれも数字は「●」の空欄です(16条・24ページ)。

  • 上限: 補償の総額は、譲渡価額の●%を超えない。注は、100%に近い上限なら、妥当かどうかを慎重に吟味する必要があるとしている
  • 小さな損害の線: 1つの理由による損害が●円を超え、その合計が●円を超えたときだけ補償する
  • 請求できる期間: クロージング日から●か月までに、書面で請求したときに限る。注は、一つの考え方として、クロージング日から数えて1〜n回目の決算日の1か月後ほどを目安にすることを挙げている

ガイドラインは、期間や責任の上限が決まっていない表明保証や、当てはまる場面がはっきりしない表明保証は、売り手が重すぎる責任を負い、争いになるリスクがあるとしています(52〜53ページ)。買い手の調査が十分でないと、表明保証の範囲や補償の額・期間の負担が増えることにつながりうる、ともしています(48ページ)。違反で責任を問われる場面や表明保証保険は表明保証とはに、調査の中身はデューデリジェンス(DD)とはにまとめています。

役員の退任・退職慰労金と、競業避止

社長が机の書類をファイルにまとめて棚に並べ、そばで案内役がうなずきながら見守っている、引継ぎの準備の場面
社長

売ったあと、私は会社を辞めるのですか。退職金や、同じ仕事をしてよいのかも気になります。

案内役

国のサンプルでは、社長はクロージングで取締役を辞め、退職慰労金は買い手が会社に払わせる形です。引継ぎへの協力と、同じ仕事で張り合わない期間(競業避止)も決めます。

ガイドラインは、最終契約で決める主な中身に、社長と社員の処遇(社長が引き継ぐ期間や、社員の雇用を続ける努力の義務など)と、競業避止(売ったあとに競合する事業をどこまで禁じるか)を挙げています(49ページ)。国のサンプルの書き方は次のとおりです(参考資料7 20〜21ページ)。

条項 国のサンプルの書き方 確かめる点
役員の退任(12条) 売り手は、クロージング日付の辞任届を出し、取締役と代表取締役を辞める。ほかの取締役・監査役にも辞任届を出させる。買い手が新しい役員を選べるよう協力する 辞める日と、ほかの役員の扱い
役員退職慰労金(11条) 買い手は、クロージング後すみやかに、会社に支給を認める決議をさせ、辞める売り手に金●●円を振り込ませる。会社は法令に従って源泉徴収をする 額・払う時期・決議の段取り
引継ぎ(13条1項) クロージングのあと、買い手の合理的な求めに応じて、決算や税の申告を含む引継ぎに協力する。くわしくは別に話し合って決める 引継ぎの期間と中身
競業避止(13条2項) 契約から●年間、買い手と会社の書面の承諾がない限り、会社と競合する仕事をしない 年数と、禁止される仕事の範囲
社員を誘わない約束(13条3項) 契約から●年間、会社の社員を誘ったり、退職を促したりしない 年数
社員の雇用(14条1項) 買い手は、原則として、クロージングのあとも社員を全員引き続き雇う 「原則として」の中身

年数や金額は国のサンプルでも空欄で、案件ごとに決めます。ガイドラインは、退職慰労金をクロージングのあとに払う形は、引継ぎのために社長がしばらく会社に残る場合などに使われることがあるものの、事業や買い手の状況によっては払われないリスクがあるとしています(54ページ)。引継ぎの作業は、3か月〜1年程度かかることが多いとしています(57ページ)。

事業譲渡には、会社法の決まりがあります。事業を譲った会社は、別の取り決めがない限り、同じ市町村と隣の市町村で、譲った日から20年間、同じ事業をしてはならないとされています(会社法21条1項)。これは事業を譲った「会社」についての決まりで、株式譲渡の国のサンプルでは、売り手本人の競業を契約の条項(13条2項)で決めています。退職慰労金の決め方と税のしくみは、社長の退職金の決め方と計算と会社を売却したときの税金と手取りにまとめています。

経営者保証の扱いと、解除・買戻しの条項

社長

会社の借入れを、私が個人で保証しています。契約書のどこに書かれるのですか。

案内役

ガイドラインは、保証を外すことを買い手の義務としてはっきり書く方向を示しています。国のサンプルには、クロージングの前と後の買い手の義務と、外れないときに売り手が契約を解除したり株式を買い戻したりできる条項があります。

ガイドラインは、保証の解除や買い手側への移し替えを想定するなら、最終契約で買い手の義務としてはっきり位置づけ、クロージングの条件にすることや、されなかった場合の条項(契約の解除や補償など)を盛り込むことが重要だとしています(52ページ)。仲介会社・FAにも、その方向で調整することを求めています(96〜97ページ)。国のサンプルの書き方は次のとおりです(参考資料7 19〜23ページ)。

時期 国のサンプルの条項
契約からクロージングまで(10条) 買い手が金融機関などと交渉し、保証の解除などができるかの意向の表明を得て、売り手に知らせる。進められるときは必要な書面を出し、役員の変更登記の書類をそろえる
クロージングのあと(14条3〜5項) 買い手は、すみやかに会社に金融機関と交渉させ、保証の解除を合意させる。売り手が保証人として払うなどの損害を受けたら、買い手が補償する。この義務を果たすまで、買い手は株式を人に譲ったり担保に入れたりしない
外れないとき(15条の2) 売り手は、クロージングから1年たつまで、書面の通知で、契約を解除するか、株式を相当な額で買い戻せる。理由は、3か月たっても保証が外れない、買い手が14日以内に金融機関への具体的な相談を始めない、金融機関が外せないとした(または条件を付けた)のに1か月以内に買い手が借り換えなどをしない、のどれか

買い手は、クロージングから6か月たって、この理由に当たるときは、解除か買戻しをするかを書面で売り手に問い合わせることができ、売り手が1か月なにもしないと、解除や買戻しはできなくなります(15条の2 4〜5項)。

サンプルの注は、クロージングのあとは会社の預金口座や印鑑も買い手が持っているため、実際の対応は困難を極めると予想されるとし、早く弁護士などに相談することが必要としています。この条項が使われるのは例外的な事態で、クロージングの前の早い段階から金融機関への相談を始めることが求められる、とも書いています。この契約は売り手と買い手の約束で、金融機関を縛るものではないため、審査が期限に間に合わないこともありうる、という注もあります(22〜23ページ)。保証が外れる・移る・残る場合の違いは経営者保証(個人保証)はM&Aで解除される?に、国が公表した事例は不適切な買い手から会社を守るにはにまとめています。

秘密保持・解除・そのほかの条項

社長

最後のほうの細かい条項は、読み飛ばしてもいいでしょうか。

案内役

秘密保持と、契約より前の約束の扱いは、社長に関わります。国のサンプルの書き方を見ておきましょう。

国のサンプルの書き方は、次のとおりです(参考資料7 22・27〜29ページ)。

  • 解除(15条): 相手に表明保証や義務の違反があり、期間を決めて直すよう求めても(催告)直さないときは、クロージングの前に限り契約を解除できる。反社会的勢力と関係がないという約束の違反は、書面で通知するだけで解除できる。解除しても、補償の請求はできる
  • 秘密保持(18条): 契約の日から●年間、相手から受けた情報、契約したこと、交渉の中身を、相手の書面の承諾なしに人に話したり、目的の外で使ったりしない。役員・社員や、弁護士・公認会計士・税理士・司法書士・FAなどには、取引に必要な範囲で話せる(同じ秘密保持の義務を負う人に限る)。法令に基づいて公的機関(事業承継・引継ぎ支援センターを含む)などに求められたときも、必要な範囲で開示できる
  • 公表の日(19条): 外に公表する日を決め、それまでは秘密を守るよう努める
  • 費用(20条): 税金などの公租公課や、アドバイザーへの報酬などの費用は、原則として各自が負担する
  • 完全合意(23条): この契約が株式譲渡についての完全な合意で、それより前に交わした取り決めは、書面か口頭かを問わず(秘密保持の契約を含む)すべて効力を失う
  • 裁判所(26条): 争いは、決めた地方裁判所で扱う

完全合意の条項がある書き方では、基本合意書の中身や口頭で聞いた約束も、契約書に入っていなければ効力を失う形になります。口頭で聞いた約束(社員の雇用、引継ぎの期間など)が、契約書の案に書かれているかを確かめます。

ガイドラインは、社員や取引先などに知らせる時期について、ごく一部の親族や幹部などを除き、原則としてできる限りクロージングのあと(早くても最終契約のあと)に知らせるべきだとしています(31ページ)。経営者保証のことで弁護士や事業承継・引継ぎ支援センター、金融機関に相談するときは、相談先を秘密保持の条項の対象から外したうえで相談することが求められ、買い手もその申し出を拒むべきではないとしています(51〜52ページ)。仲介会社との契約の秘密保持は、M&A仲介の契約の前に確かめることにまとめています。

署名の前に確かめること

社長

署名の前に、何を、だれに確かめればいいのでしょう。

案内役

ガイドラインは、契約に漏れがないかの確認を促し、できる限り弁護士の関与のもとで結ぶことが望ましいとしています。国の説明書のサンプルにある7つの項目も、確かめる手がかりになります。

ガイドラインは、仲介会社・FAに、最終契約の前に、契約の中身に漏れがないかの確認を依頼者に促すことを求めています。最終契約は双方の権利と義務を決める重要なものなので、できる限り中小M&Aの知識と実務の経験がある弁護士の関与のもとで結ぶことが望ましいとしています。売ったあとに争いになりうるリスクの事項が契約に入るときは、署名の前に、その中身と起こりうる結果を、参考資料12も活用しながら、できる限り具体的に説明することが望ましいとしています(98ページ)。

参考資料12「最終契約におけるリスク事項についての説明書サンプル」は、7つのリスクごとに、当てはまるものに印を付ける書面のひな形です(参考資料12 1〜5ページ)。

説明書の項目 印が付く場面 契約書の案で見る所
経営者保証の扱い 外すことが買い手の義務になっていない、または努力義務にとどまる。外れないときの条項がない 買い手の義務、解除・補償の条項
調査(DD)をしないこと 調査をしない、または売り手への聞き取りだけで契約する 表明保証と補償の範囲
表明保証の内容 期間や責任の上限がない。当てはまる場面がはっきりしない 補償の条項
クロージング後の支払い・手続き 代金の分割払い、退職金のあと払い、株式の段階的な取得 支払いの条項
最終契約後の支払いの変動 アーンアウト、株価調整、支払金の返還の条項 譲渡価格の条項
資産・貸付金の整理 社長個人の資産の整理が最終契約の前に終わっておらず、移し方と額が書かれていない 資産の移し方の条項
最終契約からクロージングまでの期間 2か月以上ある クロージング日

説明書の1ページ目には、これは代表的なもので、ほかのリスクも必要に応じて説明することが望まれると書かれています。

ガイドラインが、署名の前後について書いていることは次のとおりです。

  • 弁護士の確認: 書面が合意した中身を正しく表しているかの確認が必要で、社長が自分で判断するのが難しいこともあるため、弁護士が契約書の作成やリーガルチェック(法的な確認)を支えることが望ましい(125ページ)
  • 別の意見: 仲介会社などの助言に納得できず不安があるときは、署名の前に、契約の中身についてほかの支援機関の意見(セカンド・オピニオン)を求めることも有効。契約に入れたい中身や条件は、早めに仲介会社に伝えたほうが円滑に結べることが多い(19・48ページ)
  • 仲介会社にできること: 最終契約の中身の助言や、想定した条件が漏れなく入っているかの確認は仲介会社・FAの業務の例だが、最終的には双方が弁護士などに確認を頼むことを推奨している(90ページ)
  • 売ったあと: 仲介会社・FAの支援は基本的にクロージングで終わり、そのあとの争いの解決に関わることは、弁護士しかできない行為にあたるおそれがある。争いが起きたら、弁護士に支援を求めることを検討する(50ページ)

相談先について、ガイドラインは、どこに相談するか迷うときはまず事業承継・引継ぎ支援センター、法的な助言を求めたいときは日本弁護士連合会の「ひまわりほっとダイヤル」を挙げています(76ページ)。センターの使い方は事業承継・引継ぎ支援センターとはに、ガイドライン全体は中小M&Aガイドライン(第3版)を社長向けににまとめています。

よくある質問

社長 株式譲渡契約書のひな形は、どこで見られますか?
案内役

中小企業庁が、中小M&Aガイドライン(第3版)の参考資料7として、株式譲渡契約書などのサンプルを公表しています(2025年12月15日時点版)。サンプル自身が、あくまで例で、具体的な契約書を作るときは弁護士などの専門家に相談することが望ましいと書いています(参考資料7 1ページ)。このサイトは、ひな形や文例は配っていません。

社長 株式譲渡契約書に、収入印紙は要りますか?
案内役

国税庁は、印紙税がかかるかどうかは、文書の名前ではなく、書かれている中身で判断するとしています(タックスアンサー No.7100)。国税庁の印紙税額の一覧表(第1号〜第20号文書)に、株式の譲渡の契約書という区分は載っていません(No.7140・No.7141)。ただし、同じ契約書に一覧表のほかの事項が書かれていれば、その中身で判断されます。印紙が要るかどうかは、税務署か税理士に確かめてください。

社長 仲介会社に、契約書の中身を見てもらえますか?
案内役

ガイドラインは、仲介会社・FAの業務の例に、最終契約の中身についての助言や、想定した条件が漏れなく入っているかの確認を挙げつつ、最終的には売り手・買い手の双方が弁護士などに確認を頼むことを推奨しています(90ページ)。仲介会社とFAの立場の違いはM&Aの仲介とFAの違いで説明しています。

社長 契約書に書かれていない約束は、どうなりますか?
案内役

国のサンプルには「完全合意」の条項があり、契約より前に交わした取り決めは、書面か口頭かを問わず効力を失う書き方です(参考資料7 23条・28ページ)。口頭で聞いた約束は、契約書の案に書かれているかを確かめ、扱いは弁護士に相談してください。

社長

条項ごとに、何を約束して、いつまで、どこまで責任を負うのかを、書面で確かめてみます。分からないところは、署名の前に弁護士に見てもらいます。

案内役

国の説明書のサンプルの7つの項目を手元に置くと、聞くことがはっきりします。手元に残る額の見込みは、譲渡額3,000万円で計算するのように、金額を変えて見られます。

このデータについて

  • 中小M&Aガイドライン(第3版)、参考資料7(2025年12月15日時点版)、参考資料12、会社法(e-Gov法令検索)、国税庁のタックスアンサーを、2026年10月16日に確かめました。ページ番号はそれぞれのPDFのページです
  • 表の「条」は国の株式譲渡契約書のサンプルの番号で、実際の契約書の番号や書き方とは違います。サンプルの「●」(空欄)の数字は、このサイトでは埋めていません
  • 本文は要約です。正確な書き方は各資料で確かめてください。このページでは、国の登録制度のデータベースの数字は使っていません
  • 当サイトは、契約の条項の判断や文例の作成、仲介・交渉、価格や税についての助言は行いません。条項の中身は弁護士に、税は税理士に確かめてください

出典

売るかどうか決めていなくても、相談できます。電話の営業はしません。 相談のページへ