社長
米と野菜をつくる農業法人を、株式会社にして20年営んできました。農地は会社の持ち物のほかに、地域の方から借りている田んぼもあります。子どもは継がないと言っています。会社を売るとしたら、農地や農業委員会の手続きはどうなるのでしょう。
案内役
農地を持つ農業法人には、「農地所有適格法人」の要件があります。売り方によって、その要件を満たし続けられるか、農地の権利を移す許可が要るかが変わります。農地法と農林水産省の資料で確かめた範囲をご案内します。手続きの最後の確認は、農業委員会や専門家にお願いします。
先に結論
- 農地を所有できる法人は、法人の形・事業・議決権・役員の要件を満たす「農地所有適格法人」に限られます(農地法2条3項・3条2項)。2025年1月1日時点で22,693法人あり、9年前(16,207法人)の約1.4倍です
- 株式譲渡なら、農地の権利は会社に残ります。ただ、株式会社では農業関係者が議決権の過半を持つことが要件で、買い手の会社が過半の株を持つと、要件を欠くおそれがあります。要件を欠いたままと認められると、国が農地を買収する決まりがあります(法7条)
- 事業譲渡では、農地の所有権や借りる権利を移すときに、農業委員会の許可が要ります(法3条)。許可を受けずにした移転は効力を生じません。標準的な事務処理期間は4週間です
- 役員の過半は、法人の農業に常時従事する(原則年150日以上)構成員で、役員か農場長などのうち1人以上が農作業に年60日以上従事する決まりです。社長が退くときは、誰がこの要件を満たすかが確かめどころです
- 国の登録機関から報告のあった2024年度の売り手側の中小M&A 4,940件のうち、農業、林業は23件でした。2022〜2024年度の3年で115件、うち90件が株式譲渡です
- 2020年農林業センサスでは、71.1%の農業経営体が5年以内の後継者を確保していませんでした。後継者を確保している経営体でも、経営の外の人材は1.3%です
- 仲介会社に頼んだときの手数料と手元に残る額は、譲渡額3,000万円で計算すると、機関ごとに比べられます
国の数字で見る、農業法人と農業のM&A
社長
農業法人を売る話は、実際にあるのですか。
案内役
国の登録機関に報告されたM&Aは、農業、林業で2022〜2024年度に年23〜51件です。農業法人の数や、後継者の状況も、農林水産省の資料で見られます。
農林水産省の「認定農業者等に関する統計」で、農地所有適格法人と、農地を借りる形で農業に参入した一般の法人の数を見ました(経営局調べ。各年1月1日現在)。
| 区分 | 2016年 | 2020年 | 2025年 |
|---|---|---|---|
| 農地所有適格法人 | 16,207 | 19,550 | 22,693 |
| 農地を借りる形(リース方式)で参入した一般法人 | 2,344 | 3,669 | 5,037 |
農地所有適格法人は、2016年4月1日に「農業生産法人」から呼び名が変わったものです(農林水産省「農地を所有できる法人の要件の見直し」)。
2025年農林業センサス(2025年2月1日現在)では、農業経営体は83万6千で、5年前より24万(22.3%)減りました。その中で法人経営体は3万4千と、3千(10.1%)増えています。そのうち会社法人は2万5千で、5年前より5千(23.0%)増えました(調査結果の概要 1・2ページ)。
- 担い手の年齢: 個人経営体の基幹的農業従事者(ふだん主に自営の農業をしている人)は103万6千人で、5年前より24.0%減りました。65歳以上が69.6%を占め、平均年齢は67.7歳です(9ページ)
- 法人などで働く人: 団体経営体の役員・構成員(農業に150日以上従事した人)は9万8千人で21.0%増え、常雇い(年7か月以上の契約で雇った人)は24万2千人で54.4%増えました(9ページ)
後継者の状況は、農林水産省 経営局の資料(2026年1月)が、2020年農林業センサスをもとにまとめています(36・37ページ)。
- 5年以内に農業経営を引き継ぐ後継者を「確保していない」経営体は71.1%(764,367経営体)
- 「確保している」24.4%(262,278経営体)のうち、親族が95.4%、親族以外の経営内部の人材が3.3%、経営外部の人材が1.3%(3,408経営体)
- 経営主が65歳以上の経営体で、後継者を確保している割合は28.0%。団体経営体では52.2%で、個人経営体(27.4%)より高い
同じ資料は、経営継承の型の一つに、親族や従業員以外の人への「第三者」への継承(外部人材の招へい、事業譲渡など)を挙げ、事業譲渡の場合などは仲介会社への報酬の負担が生じる、と書いています(38ページ)。
国の「登録支援機関を通じた中小M&Aの集計結果」で、業種を「農業、林業」にして売り手側の件数を見ました(2026年10月16日に確認)。
| 年度 | 売り手側の全体 | うち農業、林業 | うち株式譲渡 | うち事業譲渡 |
|---|---|---|---|---|
| 2022年度 | 4,036件 | 41件(1.0%) | 36件 | 3件 |
| 2023年度 | 4,681件 | 51件(1.1%) | 36件 | 13件 |
| 2024年度 | 4,940件 | 23件(0.5%) | 18件 | 4件 |
この区分には林業も入り、農業法人だけの数ではありません。3年の合計115件のうち、株式譲渡は90件(78.3%)でした。2024年度の23件のうち19件は、仲介の支援を受けたものです。国の登録機関から報告のあった案件だけの集計で、すべてのM&Aを含むものではありません。
後継者がいないときの道の全体は、後継者がいない会社の選択肢にまとめています。
農地所有適格法人の要件
社長
うちは「農業法人」のつもりでいます。「農地所有適格法人」とは何が違うのですか。
案内役
農地法の要件を満たして、農地を持てる法人のことです。法人の形、事業、議決権、役員の面で決まりがあります。売ったあとも満たし続けられるかが、M&Aの確かめどころになります。
農地法は、農地所有適格法人ではない法人が、農地の所有権や借りる権利などを取得することを、原則として認めていません(法3条2項2号。借りる形の例外は下の「事業譲渡」の節で見ます)。要件は次のとおりです(法2条3項)。
| 要件 | 中身 | 根拠 |
|---|---|---|
| 法人の形 | 農事組合法人、株式会社(すべての株式に譲渡制限があるもの)、持分会社 | 法2条3項、処理基準1ページ |
| 事業 | 主な事業が農業。農畜産物の加工・販売や農作業の受託なども含む。直近3年の売上高の過半で見る | 法2条3項1号、施行規則2条、処理基準1ページ |
| 議決権 | 株式会社では、農業関係者が総議決権の過半を持つ | 法2条3項2号 |
| 役員 | 理事・取締役の過半が、法人の農業に常時従事する(原則年150日以上)構成員 | 法2条3項3号、施行規則9条 |
| 農作業 | 役員か、農場長などの使用人のうち1人以上が、農作業に原則年60日以上従事 | 法2条3項4号、施行規則7・8条 |
農業関係者: 議決権の要件でいう農業関係者は、法人に農地を譲ったり貸したりしている個人、法人の農業に常時従事する人、法人に農作業を委託している個人、農地バンク(農地中間管理機構)、地方公共団体、農業協同組合などです(法2条3項2号イ〜チ)。2016年の見直しで、農業関係者以外の議決権は「4分の1以下」から「2分の1未満」に緩められました(農林水産省の見直しの概要)。国の処理基準は、この要件を、農業関係者による会社の支配権を確保するためのもの、としています(2ページ)。
毎年の報告: 農地を持つか、借りて耕作している農地所有適格法人は、毎事業年度の終わりから3か月以内に、事業の種類と売上高、構成員とその議決権、役員の農業への従事状況などを、農地のある市町村の農業委員会に報告します(法6条1項、施行規則58・59条)。報告をしない、またはうその報告をすると、30万円以下の過料です(法68条)。
売り方で変わる、農地の権利の引継ぎ
社長
会社を売ったら、農地の名義や、借りている田んぼの契約は、全部やり直しになるのですか。
案内役
売り方で変わります。株式譲渡なら、農地の権利を持つ会社はそのままです。事業譲渡では、移す農地ごとに許可が要ります。合併や会社分割は、届出の形です。
| 売り方 | 農地の権利 | 主な手続き | 根拠 |
|---|---|---|---|
| 株式譲渡 | 会社が持ったまま。株主が変わる | 権利は動かない。要件を満たし続けているかを毎年報告 | 法3条1項・6条 |
| 事業譲渡 | 農地の所有権や借りる権利を、買い手に移す | 農業委員会の許可。売り手と買い手が連名で申請 | 法3条、施行規則10条 |
| 合併・会社分割 | 存続する会社や、農地の権利を引き継ぐ会社が受け継ぐ | 農業委員会への届出(おおむね10か月以内) | 法3条の3、処理基準11ページ |
| 農地バンクを通す | 農地バンクの計画で、借り手を替える | 都道府県知事の認可と公告で権利が移る。3条の許可は要らない | 法3条1項7号、農地中間管理事業法18条 |
農地法3条の許可は、農地の所有権を移したり、借りる権利などを設けたり移したりするときに、当事者が農業委員会から受けるものです(法3条1項)。株式譲渡では、農地の権利を持つ会社そのものは変わりません。中小M&Aガイドライン(118ページ)も、一般的に株式譲渡は許認可の取り直しが要らず、事業譲渡は許認可を原則として取り直す必要がある、としています。
株式譲渡で問われること: 権利は動かない代わりに、株主や役員が変わったあとも、会社が農地所有適格法人の要件を満たし続けているかが問われます。次の節でくわしく見ます。
合併・会社分割: 国の処理基準は、法人の合併・分割で農地の権利を得たときを、農業委員会への届出(法3条の3)が要る場面に挙げ、「遅滞なく」をおおむね10か月以内としています(11ページ)。届出をしない、またはうその届出をすると、10万円以下の過料です(法69条)。合併で存続する会社や、分割で農地の権利を引き継いだ会社が農地所有適格法人でないときは、農地所有適格法人でなくなった場合と同じように扱われます(法6条1項)。
農地バンク: 農地バンクが行う農地中間管理事業には、貸付けの相手方を替えることも含まれます(農地中間管理事業法2条3項)。農地バンクが作る「農用地利用集積等促進計画」を都道府県知事が認可して公告すると、計画のとおりに権利が設けられたり移ったりし、農地法3条の許可は要りません(同法18条、農地法3条1項7号)。
株式譲渡で、要件を満たし続けられるか
社長
株を買ってくれる相手が、ほかの会社ということもありますよね。それでも会社は農地を持ち続けられるのですか。
案内役
株式会社の農地所有適格法人では、農業関係者が議決権の過半を持つことが要件です。買い手がどんな人か、株をどれだけ持つかで、要件を満たし続けられるかが変わります。
議決権の要件でいう農業関係者の一覧(法2条3項2号イ〜チ)には、農地バンク・地方公共団体・農業協同組合などを除いて、会社は入っていません。買い手ごとに、法律と国の資料に書かれていることを並べます。
| 買い手 | 議決権の要件との関係 | 根拠 |
|---|---|---|
| 法人の農業に常時従事する個人(社員や、新しく加わって働く人など) | 農業関係者に入る | 法2条3項2号ホ |
| ほかの農業法人(農地所有適格法人) | 一覧には入らない。売る側が認定農業者で、農業経営改善計画に買い手を「関連事業者等」として書いて市町村などの認定を受けると、常時従事する構成員の議決権を残したうえで、割合の上限なく出資できる | 基盤強化法12条・14条の2、同法施行規則14条、基本要綱60ページ |
| 食品会社など、農業以外の会社 | 農業関係者以外の議決権は、合わせて2分の1未満まで。農業経営発展計画の認定を受けると、取引先(提携事業者)の出資があっても、農業関係者が3分の1を超え、農業関係者と提携事業者を合わせて過半であればよい | 法2条3項2号、基盤強化法16条の2・16条の5、基本要綱29ページ |
認定農業者は、農業経営改善計画(経営の改善の目標と、そのための取組を書いた計画)を市町村などに認定された農業者です(基盤強化法12条・13条)。
農業経営発展計画: 2025年4月1日に始まった制度です(e-Govで、2025年3月31日時点の版に無い条文であることを確かめました)。株式会社の農地所有適格法人が、取引先から出資を受けて経営を発展させる計画を作り、農林水産大臣の認定を受けます。認定農業者だった期間が通算5年以上あること、市町村の地域計画に農業を担う者として書かれていること、農地の権利の移動や取締役の選任・解任を株主総会の特別決議で決めると定款に定めていること、などが条件です(基盤強化法16条の2、基本要綱25〜26ページ)。
要件を欠いたときの流れは、法律で次のように決まっています。
- 報告と勧告: 毎年の報告には構成員の名前と議決権を書くので、株主の顔ぶれは報告に表れます。農地を持つ法人は、議決権の5%以上を持つ主要株主等の名前なども書きます(施行規則59条)。報告から、要件を満たさなくなるおそれがあると認めると、農業委員会は必要な措置を勧告できます(法6条2項)
- 国の買収: 農地所有適格法人でなくなると、その法人が持つ農地と、借りて耕作に使っている農地は、国が買収します。リース方式(法3条3項)で借りた農地などは除きます(法7条1項)
- 満たし直したとき: 農業委員会の公示から3か月以内に、要件をすべて満たすに至ったと届け出て、それが真実と認められると、公示は取り消されます(法7条5項)
国の処理基準は、農地所有適格法人でなくなったかは、ある時点だけで判断せず、要件を再び満たすことが難しく、欠いたまま農地を持ち続けると認められるかで判断する、としています。常時従事する構成員が役員の過半を一時的に下回った場合など、再び満たすと見込まれる場合は、そう扱わないとしています(15ページ)。
事業譲渡で農地の権利を移すときの手続き
社長
株ではなく、農業の事業と農地を買い手に渡す形だと、何が要りますか。
案内役
移す農地について、農業委員会の許可が要ります。借りている農地は、貸してくださっている方の承諾も関わります。
- 許可を出すところ: 農地のある市町村の農業委員会(法3条1項)
- 申請する人: 売り手と買い手が連名で申請する。土地の登記事項証明書、買い手の定款の写し、買い手が農地所有適格法人なら株主名簿などの写しを付ける(施行規則10条)
- かかる期間: 標準的な事務処理期間は4週間(農地法関係事務処理要領 別紙1 第1の3)。申請の締切日と、許可を審議する総会の日を決めて知らせている農業委員会もある(2021年8月10日の通知)
- 許可がないと: 許可を受けずにした行為は効力を生じない(法3条6項)。許可を受けずに権利を移すと、3年以下の拘禁刑か300万円以下の罰金の対象になる(法64条)
許可の主な基準は次のとおりです(法3条2項)。
| 基準 | 中身 | 根拠 |
|---|---|---|
| 全部を効率的に使う | 機械・働く人・技術などから見て、取得後に耕作に使う農地の全部を効率的に使うと認められる | 法3条2項1号、処理基準5ページ |
| 法人の形 | 法人なら農地所有適格法人であること(下のリース方式を除く) | 法3条2項2号 |
| 常時従事 | 個人なら、本人か世帯員が農作業に常時従事する | 法3条2項4号 |
| 周りとの調和 | 周辺の農地の効率的な利用に支障を生じない | 法3条2項6号 |
リース方式: 農地所有適格法人ではない会社でも、借りる形なら、適正に使っていないときは契約を解除する条件を書面の契約に付けること、地域のほかの農業者と役割を分けて続けて農業を営むと見込まれること、業務を執行する役員などのうち1人以上が耕作に常時従事すること、のすべてを満たせば許可を受けられます(法3条3項)。この形では、農地を所有することはできません。
借りている農地: 会社が借りている農地を買い手に引き継ぐには、借りる権利を移すことになり、農業委員会の許可のほか、貸主の承諾が要ります(民法612条1項)。貸主と買い手が新しく契約を結ぶ形でも、許可が要ります(法3条1項)。地域の方から借りている田んぼが多いなら、貸主ごとの契約と、誰に話を通すかを一覧にしておけます。農地バンクから借りている農地は、上の節のとおり、農地バンクの計画で借り手を替える道があります。進め方は、都道府県の農地バンクに確かめてください。
社長個人の農地: 中小M&Aガイドライン(55ページ)は、社長個人の名義で事業に使っている土地は、買い手に売るか引き継ぐかを、できるだけ最終契約の前に整理しておくことが望ましいとしています。リース契約や賃貸借契約の名義の変更は、クロージングの前から相手と話し合い始めることが多い、とも書いています(56ページ)。
株式譲渡との手取りや手続きの違いは、株式譲渡と事業譲渡の違いで比べています。
社長が退いたあとの役員と、農作業に従事する人
社長
役員で毎日畑に出ているのは、私だけです。私が退いたら、要件はどうなりますか。
案内役
役員の過半が、法人の農業に常時従事する構成員であることが要件です。社長が退いたあと、誰が役員として農業に従事するかを、買い手と早めに話しておけます。
法律と国の処理基準に書かれている、人の主な決まりです。
| 決まり | 中身 | 根拠 | 書き出しておけること |
|---|---|---|---|
| 役員の過半 | 理事・取締役の実際の人数の過半が、法人の農業に常時従事する構成員(株主・組合員)。常時従事は、原則として年150日以上 | 法2条3項3号、施行規則9条、処理基準3ページ | 誰が株を持ち、年に何日従事しているか |
| 農作業に従事する人 | 役員か、農業の権限と責任を持つ使用人(農場長・支店長・農業部門の部長など)のうち1人以上が、農作業に原則年60日以上 | 法2条3項4号、施行規則7・8条、処理基準3ページ | 農場長などを置いているか、その権限を書いた規則があるか |
| 農作業の範囲 | 耕うん・整地・種まき・施肥・病害虫の防除・刈取り・水の管理・えさやりなど。帳簿の記帳や集金は含まない | 処理基準3ページ | 誰がどの作業に何日出ているかの記録 |
役員の要件でいう「農業」には、加工・販売などの関連事業も含みます(法2条3項1号)。一方、1人以上が従事する「農作業」は、上の表の範囲の作業です。
社長が、常時従事する役員の中心で、農作業に年60日以上出ているただ一人の人なら、退いたあとに要件が欠けるおそれがあります。買い手から来る役員を含めて、役員の過半が、株主で、かつ法人の農業に常時従事する人である必要があります。
買い手が認定農業者の農地所有適格法人で、売る側の株の過半を持つ親会社になる場合は、売る側の農業経営改善計画に書いて認定を受けると、親会社の役員が子会社の役員を兼ねる特例があります。兼ねる役員は、親会社の農業に常時従事する株主で、子会社の農業に年30日以上従事することが条件です(基盤強化法14条の2第2項、同法施行規則14条、基本要綱60〜61ページ)。
事業譲渡で、社員に買い手の会社へ移ってもらうには、一人ひとりの承諾が要ります(民法625条1項)。中小M&Aガイドライン(49ページ)は、経営者による引継ぎの期間や、従業員の雇用を続ける努力を、最終契約で決める主な内容に挙げています。社員への伝え方は会社を売ることを、家族と社員にいつ・どう伝える?にまとめています。
手数料と手元に残る額、相談の入口
社長
手数料はどのくらいかかりますか。どこに相談すればいいですか。
案内役
手数料は計算機で機関ごとに見られます。農地のことは農業委員会、経営の継承は都道府県の農業経営・就農支援センターでも相談を受けています。
国の登録データ(2026年10月12日取得)で、仲介の売り手側の最低手数料を届け出た2,506機関の中央値は300万円でした(入力の誤りとみられる10億円以上の3件を除く)。譲渡額3,000万円で計算する・譲渡額1億円で計算すると、機関ごとの手数料と手元に残る額を並べて見られます。計算機は、成功報酬に含まないと届け出た着手金・中間金を足し、月額報酬は足していません。中小M&Aガイドライン(63ページ)は、仲介者・FAの手数料には一般的な法規制がないとしています。費用の全体はM&Aにかかる費用の全体に、値段の考え方は会社はいくらで売れる?にまとめています。
公的な相談先には、次のものがあります。
- 農業経営・就農支援センター: 都道府県が、農業経営の円滑な継承や法人化のための助言・指導などを行う拠点の体制を整えることになっています(基盤強化法11条の11)。農林水産省の資料では、2024年度に専門家の支援チームの派遣などで3,285名の農業経営者を支援し、経営相談の内容の8%が「経営継承・相続」でした(54・55ページ)
- 事業承継・引継ぎ支援センター: 国の委託を受けた機関が全国48か所に置く公的な窓口で、相談は無料です(中小M&Aガイドライン60・66ページ)。農業経営基盤強化促進法の基本要綱は、農業経営・就農支援センターと連携する機関に、事業承継・引継ぎ支援センターやよろず支援拠点、税理士会、行政書士会などを挙げています(8ページ)。くわしくは事業承継・引継ぎ支援センターとはをご覧ください
- 補助金: 農林水産省の資料は、経営継承の支援策の一つに、事業承継・M&A補助金による専門家活用の費用の支援を挙げています(39ページ)。くわしくは事業承継・M&A補助金で仲介手数料は補助される?をご覧ください
確かめたいことごとの、聞く先の例です。
| 確かめたいこと | 聞く先 |
|---|---|
| 農地所有適格法人の要件・3条の許可・合併の届出・毎年の報告 | 農地のある市町村の農業委員会 |
| 農地バンクから借りている農地 | 都道府県の農地中間管理機構(農地バンク) |
| 農業経営改善計画の関連事業者等の特例 | 計画を認定した市町村など |
| 農業経営発展計画 | 農林水産省 |
| 経営の継承・法人化 | 都道府県の農業経営・就農支援センター |
| 許可の書類・社員の雇用 | 行政書士・社会保険労務士 |
| 売るかどうか・相手探し | 事業承継・引継ぎ支援センター・仲介会社 |
中小M&Aガイドライン(130ページ)は、許認可の手続きは行政書士、労働・社会保険の手続きは社会保険労務士が担うことも多いとしています。法務のデュー・ディリジェンスでは、許認可・コンプライアンスも調べます(126ページ)。売るまでの流れは会社を売るにはにまとめています。
ほかの業種の確かめどころは、建設業のM&A・運送業のM&A・酒蔵のM&A・製造業のM&Aの記事にまとめています。
よくある質問
社長
社長個人の農地を、会社に貸しています。会社を売るときはどうなりますか?
案内役
法人に農地を貸している個人は、議決権の要件でいう農業関係者に入ります(農地法2条3項2号ロ)。社長個人の名義の土地は、買い手に売るか引き継ぐかを、できるだけ最終契約の前に整理しておくことが望ましいとされています(中小M&Aガイドライン55ページ)。会社や買い手に農地を売るときは、農業委員会の許可が要ります(法3条)。
社長
農業以外の会社に、会社ごと買ってもらえますか?
案内役
株式会社の農地所有適格法人では、農業関係者以外の議決権は合わせて2分の1未満までです(法2条3項2号)。それを超えて要件を欠いたままだと、国の買収の対象になりえます(法7条)。農業以外の会社は、農地を借りる形(リース方式)で農業をする道があり(法3条3項)、2025年1月1日時点で5,037法人がこの形で参入しています。
社長
法人にしていない、個人の農家です。どう引き継ぐのですか?
案内役
個人事業主のM&Aは、事業譲渡の形が通常とされています(中小M&Aガイドライン49ページ)。農地を移すには、農業委員会の許可が要ります(法3条)。農林水産省の資料は、個人では代表者の交代に伴う資産や経営関係の継承の手続きが煩雑で、法人は代表者が交代しても資産の帰属や対外的な契約関係が続く、としています(51ページ)。
社長
買い手が見つからず、会社をたたむときは?
案内役
国の処理基準は、要件を欠いていても、近く解散する予定で、自ら農地の処分を進めている場合などは、国の買収の公示を当分見合わせるとしています(15ページ)。農地を売ったり貸したりするときは、農業委員会の許可を受けるか(法3条)、農地バンクを通す方法などがあります。たたむときの費用と手続きの比べ方は会社をたたむか、売るかにまとめています。
社長
株式譲渡なら農地は会社に残っても、買い手と株の持ち方しだいで要件が崩れることがあるのですね。まず、株主と役員の従事日数、会社の農地と借りている農地の一覧を書き出して、農業委員会にも話を聞いてみます。
案内役
株式譲渡なら要件を満たし続けられるか、事業譲渡なら移す農地の許可と貸主の承諾です。役員の顔ぶれと農地の一覧は買い手も確かめるので、早めにそろえておくと話を進めやすくなります。手数料は計算機で、手続きは農業委員会や専門家に確かめてください。
このデータについて
- 法令は、2026年10月16日にe-Gov法令検索で確かめました。農業経営発展計画の条文(農業経営基盤強化促進法16条の2〜16条の7)は、2025年3月31日時点の版に無く、2025年4月1日から施行されている版にあることを確かめました
- 要件の判断のしかた、合併・分割の届出の期間、国の買収の扱いは、農林水産省の処理基準(2025年3月31日最終改正。ページは印字の番号)、事務処理要領、2021年8月10日の通知、農業経営基盤強化促進法の基本要綱(2026年9月30日最終改正。ページは印字の番号)で確かめました。細かい取扱いは、農業委員会ごとに違うことがあります
- 農地所有適格法人とリース方式の法人の数は、農林水産省「認定農業者等に関する統計」(経営局調べ。各年1月1日現在)です
- 農業経営体と担い手の数は「2025年農林業センサス報告書」の調査結果の概要(2025年2月1日現在。ページは印字の番号)、後継者の状況は農林水産省 経営局「農業経営をめぐる情勢について」(2026年1月。2020年農林業センサスをもとにした数字。ページは印字の番号)です
- M&Aの件数は、M&A支援機関登録制度HP「登録支援機関を通じた中小M&Aの集計結果」で、業種「農業、林業」に絞って2026年10月16日に確かめました。林業を含み、国の登録機関から報告のあった案件だけの集計です
- 最低手数料の中央値は、M&A支援機関登録制度HP 登録支援機関データベースを加工して作成しました(取得日 2026年10月12日)。届出のある2,509機関から、入力の誤りとみられる10億円以上の3件を除いて数えました
- 中小M&AガイドラインのページはPDFのページです
- このサイトは、特定の仲介会社や買い手、専門家をすすめません。農地の許可・届出、要件に当たるかどうか、法律や税についての助言は行いません。個別のことは、農業委員会や各窓口、専門家に確かめてください
出典
- e-Gov法令検索 農地法
- e-Gov法令検索 農地法施行規則
- e-Gov法令検索 農業経営基盤強化促進法
- e-Gov法令検索 農業経営基盤強化促進法施行規則
- e-Gov法令検索 農地中間管理事業の推進に関する法律
- e-Gov法令検索 農業協同組合法
- e-Gov法令検索 民法
- 農林水産省 農地法関係事務に係る処理基準について(平成12年6月1日 12構改B第404号)
- 農林水産省 農地法関係事務処理要領の制定について(平成21年12月11日 21経営第4608号・21農振第1599号)
- 農林水産省 経営局農地政策課長 農地法第3条第1項の許可事務の迅速化及び簡素化について(令和3年8月10日)
- 農林水産省 農業経営基盤強化促進法の基本要綱(平成24年5月31日 24経営第564号。最終改正 令和8年9月30日)
- 農林水産省 農地を所有できる法人の要件の見直し(平成28年4月1日施行)
- 農林水産省 認定農業者等に関する統計
- 農林水産省 報道発表「2025年農林業センサス結果の概要(確定値)」の公表について(2026年3月31日)
- 農林水産省 2025年農林業センサス報告書 調査結果の概要(農林業経営体調査)
- 農林水産省 経営局 農業経営をめぐる情勢について(令和8年1月)
- 中小企業庁 中小M&Aガイドライン(第3版)(2024年8月)
- 中小企業庁 M&A支援機関登録制度「登録支援機関を通じた中小M&Aの集計結果」M&A形態の割合(農業、林業)
- 中小企業庁 M&A支援機関登録制度「登録支援機関を通じた中小M&Aの集計結果」FAと仲介の利用割合(農業、林業)
- 中小企業庁 M&A支援機関登録制度「登録支援機関を通じた中小M&Aの集計結果」M&A形態の割合(全業種)
- 中小企業庁 M&A支援機関登録制度 登録支援機関データベース
